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近くのカフェに入って向かい合わせに座った。
「俺のこと、なんで分かったんですか？」
『何度か目黒と一緒にいるのを見掛けたから』
「そうだったんですか… 」
『手話、上手だね』
「いえ、俺まだまだ下手くそで… よく間違ってるよって」
『目黒に手話教えてもらってるんだ？
実は俺が教えたの』
「はい。聞いてます」
『聞いてる？… そう。……… なんか、プレゼントを使い回された気持ち』
「え… ？」
『好きな人にあげたものを包み直して、他人に渡された感じ』
どうゆう事なんだろう。
わかるのは、目の前のこの人が苛立ち悲しんでいる事だけ。
その感情に戸惑う。
『目黒の声聞いた事あるよね？』
「…… 声？ えっと、高校の時まで、なら」
『そっか。… ふふ、恋がかなかったとしても、俺にはその夢は叶わないんだ … 。
それさえも叶いそうにないんだけど』
辛そうにそう言って、渡辺さんは席を立つと店から出て行く。
「まって … 」
突然のことに一瞬なにが起こったのかわからなかった。
だけど、追い掛けようとした。
でも、
── 俺が行ってどうなる？
彼が言った事を思い返す。
きっと、俺じゃない。
“渡辺翔太さんと会った。
少し話したんだけど、様子が心配で”
蓮にラインをする。
すぐに既読が付いて、
『今どこ？』
“〇〇のカフェ”
『わかった。近くだからすぐ行く』
店を出て辺りを見渡しながら渡辺さんを探す。
角を曲がったところで蓮を見つけて、一緒にいるのは渡辺さん。良かった、出会えたんだ。
『ごめんっ、すっげぇ八つ当たりした。
お前のこと応援したいのにっ、昔の虚しい自分を思い出して、いやなヤツになってしまう … っ』
『翔太くん』
『あの人に謝っといてくんない？きっと、勘違いさせてしまってるから』
『待って、翔太くん』
『 ……っ、』
『ゆっくりでいいから話して欲しい。
昔、翔太くんに何があったのか。
言いたくないって言った事を』
『…うっ、うぅ… 』
泣きながらうずくまる渡辺さんの背中を蓮が落ち着かせようと摩る。
俺は2人を見守るしかない。
『佐久間くん』
蓮が俺を見る。
分かってる。
今の俺はここにいても何も出来ない。
俺は頷いて、この場から離れる。
早歩きで振り返らない。
だって、泣いてる顔を蓮に見られたくなかったから。
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作者名：chugi
| 作者ホームページ：
作成日時：2023年2月4日 21時
