25 ページ25
.
スマホを返す佐久間くんが、
「ねぇ、その人って、友達… ？」
『うん。友達。すっごく大事な』
「… そうなんだ」
『翔太くんって言って、前に話したことがあると思うんだけど、俺に手話を教えてくれた人なんだ』
「うん、言ってたね。そうだった」
『あ、メールきた』
そう言ってスマホを見せる。
“悪い。ビデオ通話とまちがえた”
「…ねぇ、蓮。 俺に構わず、話していいんだよ？掛け直してあげてよ」
もしかしたら急用なんじゃねーの？って。
『… ライン、しとくよ』
「うん。そうしてあげて」
お好み焼きを食べる佐久間くんの前で翔太くんにラインを打つ。
“今友達とご飯食べてる。何かあった？”
“急ぎじゃないから大丈夫。邪魔してごめん”
“邪魔なわけないじゃん”
“サンキュ。また連絡する”
いつもと変わらない様子の翔太くんに安堵する。
やり取りを終えてスマホの画面を閉じる。
柔らかい眼差しで俺を見てる佐久間くんの視線に気づいて、
『ごめん』
「にゃは、なんで謝んの。これ、蓮の分。食べよ？」
うんって、頷いてお好み焼きを頬張る。
「蓮、くちの横にソース付いてる」
手を振って教えてくれる佐久間くんがとても楽しげだ。
「昔にもこーゆーのあったよな。覚えてる？」
学生だった、付き合い始めたばかりの頃。
確かあれはケーキを食べていて、
「蓮、クリーム付いてるよ。舐めてあげよっか」
ジョークのつもりで言ったんだろう、佐久間くんが悪戯する幼い子みたいに楽しそうに笑ってそんな事を言うから、つい俺も乗ってしまった。
「いいよ、舐めて」
他の客もいるカフェでのやり取り。
そう返したら、何言ってんだよって自分から言い出したくせに照れながら怒ったんだ。
『…… 覚えてるよ。佐久間くん、照れて舐めてくれなかった』
佐久間くんの事だから、そんなやり取りまで覚えてなくてなくて、まさかそんな返しが来るとは予想出来てなかったんだろうな。
「… 舐める？ や、そんなん、えっ？」
『覚えてないでしょ？』
ほらね、やっぱり。
しどろもどろになる様子が可笑しくて笑ってしまう。
かわいい。変わらない佐久間くん。
それが嬉しい。
だから、変わってしまった事に気づくのが怖いと思う。
変わってないと言った佐久間くんだけど、俺たちはもうあの頃の子供じゃない。
そばにいたら離れたくなくなるくせに、そばにいると不安に襲われる。
そうなるのって、もう昔の様じゃないから、だよね。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 266人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：chugi
| 作者ホームページ：
作成日時：2023年2月4日 21時
