ロイヤルミルクストーリー (ページ29)

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SHOTA side

9月。

新学期が始まって、朝から晶哉が来なくなった。

… なので、水撒きが俺の仕事になった。

や、いいんやけどな、

花壇の植物のお世話も好きやし、行き交う人と挨拶して世間話をしたり、笑顔を見るんも好き。

お客さんが来る前のひととき、ショーケースに並べたケーキを見るのも好き。

それを見てどれにしようか悩みながらわくわくしてる姿を想像して嬉しくなる。

スイーツはみんなを笑顔にする。

だから、好き。

幸せな気持ちにさせてくれる。

だのに、

「朝から佐野くん来ーへんから寂しいん？」

マルがおかしな事を言う。

「… なんでそんなん思うん？」

こんなにも好きなものが溢れてるのに。

「いや、なんか、なんとなく？どこか章ちゃん上の空やし」

「そんな事ないし」

「でも、トング反対やで？」

「へ？あ、これは間違えただけやし！」

「いつもはそんな間違いせーへんのに可笑しいねぇ。なぁ、たっちょん」

ちょうど出勤して来た大倉に振るのやめて。

「あいつは？辞めたん？」

「辞めてないし」

「即答」

「マルうるさい。
晶哉は今日から学校なん」

「ふーん。で、ヤスは佐野が居らんで寂しいんや？」

「お前まで揶揄うなって」

なんかムカついて調理場に入る。

昨夜作ったシュークリームは完成してる。冷蔵庫から皿を取り出して口に放り込んだ。

ひと口サイズやから食べやすくて美味しい。

シューの上にチョコをコーティングしても美味しいかも。

これは売り物じゃないから材料費は実費。
あとで買いに行くかな。

「シュークリームなんて久しぶりに作ったんやない？」

どれ、ってひと口食べたのは大倉。

「旨っ。そんな甘ない … 、懐いなぁ。
確か高校の時ちゃう？お前が初めて作ったやつ。おんなじ味やわ… 」

指に付いたクリームを舐めてそんなん言う大倉を凝視する。

「 … 覚えてるん？」

「そらな。甘いの苦手やけど、お前が作ったものは食えたし、食える」

「やって、それは… 」

── おーくらに合わせてたから。

鼓動がうるさい。

そんなん今も覚えてるなんて、ずるい。

「大倉、開店するでー。ホール出てな」

「ん、わかった」

通り過ぎる時、くしゃりと大倉の大きな手が頭を撫でる。

「… 章ちゃん大丈夫なん？顔赤いで」

「だいじょーぶや」

顔が熱い。

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