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『ごちそうさま』
いつのまにか終わっていたお会計に、そんなことができるようになったのかと感動する。
と「さみぃな」
店を出ると、きんっと冷えた空気に首をすくめる。
『もう冬だね』
少しの空間を開けて隣を歩くとしみつをちらりと見る。
昔がまた蘇る。
いつも自分のポッケに手を突っ込んで、手を繋いでくれないから、としみつの腕にしがみついて歩いていた。
歩きにくい、とかぶつぶつ言いながらも笑って。
寒がりで、マフラーぐるぐる巻きにして、いっぱい着込んだ姿がなんだか可愛くて大好きだった。
慌てて頭を振る。
だめだ。すぐ昔の記憶を辿ってしまう。
大好きだった、なんて。
今更そんなこと思っても、しょうがない。
『じゃあ、あたしここで』
歩く足を止めて、としみつを見る。
と「危なくね?送ってかなくていい?」
『紳士かよ。大丈夫!』
じゃあね、と手を振り、としみつに背を向ける。
と「あ、A」
『ん?』
振り返る。
一瞬黙って、口を開く。
と「俺、彼女できた」
はにかみながら、言った。
『あ、そうなんだ、おめでとう』
普通の声、普通の声。
と「そういえば報告してなかったなと思って」
『うん、なにこのタイミングって思った』
と「じゃあ」
『あ、あたしもね!彼氏いるよ!』
背を向けようとしたとしみつに、慌てて言う。
と「あ、そっか。そうなんだ」
『…うん』
と「そりゃいるよな。綺麗になったもん。まじで」
笑顔でさらっと、またそんなことを言う。
当たり前だけど、なにも動揺していないその姿に少し傷つく。
彼女いるって聞いて、うっかり落ち込んじゃった私とは全然違う。
『…じゃあ、元気でね』
と「おう。仕事がんばって」
『ありがとう』
背を向けてとしみつは歩いて行った。
さよなら。大好きだった人。
今度こそ本当に、もう二度と会わない。
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あらん - 最初は切なかったのに最後はキュンキュンで涙止まりませんでした…!緑さん推しなので余計に刺さりました笑 (2022年8月25日 3時) (レス) @page37 id: 744e90fb9c (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 完結おめでとうございます!最初から読み返して、またキュンキュンしてしまいました…。掻っ攫っていく緑さんのかっこよさといったらもう………!!!素敵な作品をありがとうございました! (2020年11月28日 15時) (レス) id: 3c19ec381c (このIDを非表示/違反報告)
赤RINGO(プロフ) - 初めまして、ちゅっちゅさんの作品にどハマりしております。いつもドキドキをありがとうございます。これからも楽しみにしております! (2020年1月11日 20時) (レス) id: 2a53949147 (このIDを非表示/違反報告)
ちゅっちゅ(プロフ) - まっちゃさん» コメントありがとうございます!とても励みになります!!パスワードがかかっているものは、これから公開予定です。まだ書き始めたばかりなので鍵かけております。まぎらわしくてごめんなさい!! (2019年12月31日 1時) (レス) id: dbde00ccb7 (このIDを非表示/違反報告)
まっちゃ(プロフ) - はじめまして…! いつも次どうなるんやろってワクワクしながら読んでおります!他の作品も読ませていただいているのですがパスワード認証のあるものもあってそのパスワードを教えて貰うことは可能でしょうか? お返事頂けますと幸いです…!これからも応援してます! (2019年12月30日 9時) (レス) id: e2582815ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちゅっちゅ | 作成日時:2019年10月25日 1時