桃色フィルター -数原龍友-

filter 44. ページ44

.




龍｢…俺な、本気でアーティストになりたくて、恋とかそういうのどうでもいいって思っとった｣






龍友くんの声は思ったよりも小さくて

ほんとに独り言みたいで

自分の心臓の音にかき消されないように

必死に聞いた。






龍｢だから、好きだって言われた時、正直どうしていいか分からんかった。嬉しかったけど、俺は仕事の方が大切やから、俺のこと好きな時間なんてもったいないでって｣






…あ、言われたことある。


俺のこと好きな時間もったいないから他に使え…って。



まだあの頃は子どもだったから

龍友くんの言葉の意味、深く考えなかったな…。






龍｢…でも最近、無理やり自分の気持ち抑えとる気がしてずっとモヤモヤしてた｣






龍友くん、


この独り言、わたしに向かって言ってるって思っていいの？




なぜだか溢れそうな涙を我慢しながら龍友くんの言葉を待つ。






龍｢仮に付き合ったとして、普通のカップルみたいに手繋いで外を歩くこともできひん。一緒にいれる時間だって少ない。幸せにしてやれへん…って言い訳並べて逃げとったんやと思う｣






…別に、いいのに。


龍友くんがいてくれたら

わたしそれだけで幸せなのに。



好きだから

少しわがまま言っちゃうかもしれないけど

外歩けなくたって

たまにしか会えなくたって

龍友くんが笑ってくれてたら

わたし…それだけでいいのに。






龍｢ほんまに…アホやと思う。こんなに大切で、大事な存在なのに｣






もう、むりだ…。


溢れた涙がそっと頬を流れる。


我慢できなかった涙が次々と落ちていく。






龍｢どんな時でも想ってくれとったのに、自分の気持ちに向き合おうともせんで…。ごめんな｣






龍友くんの声が優しくて

あたたかくて。


涙、止まんないよ。






龍｢これからも今までと同じくらい、いや…今よりもっと俺を好きでいて欲しい｣






ゆっくり龍友くんの腕が伸びてきて

右手はお腹に

左手は頭に回された。






龍｢…好きや｣






…ずっと、聞きたかった。


その言葉を、ずっと待ってたの。






『もっかい、言って…っ？』






右向いたらすぐ近くに龍友くんの顔があって目が合った。


涙で濡れた頬を親指で拭いながら

しっかりとわたしの瞳を見つめるの。






龍｢…大好きや、A｣






どちらからともなく触れた唇は

愛しくて、切なくて

大好きが溢れた。




.

filter 45.→←filter 43.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す