アソビゴコロ 〜Wedding？〜６【川村壱馬】

嘘 ページ47

.




熱は無事に下がり、すぐに退院できた
壱馬先輩は しばらくわたしと離れたい と言った
ちゃんと理由があるから って真剣に言ってくれたから
わたしは実家にいることにした

壱馬先輩のおかげでやっと家族にはなれたものの
小さい頃についた傷は簡単には癒えなくて
荷物を入れたキャリーを引きながらふらふらと歩いてた

今日もジメジメと暑い
空はどんよりと曇っていて
これから雨が降りそうな雰囲気だ

お医者さんが言ってたの
一時的なショックでの記憶喪失は
短い期間で思い出すことが多いって
だから、あまり長い間思い出さないようなら
期待はしない方がいいかもしれません…って

こわくて、短い期間ってどれくらいですかって聞けなかった

…感じる
自分が自分じゃなくなっていくのを
壊れていくのを

今までどれだけ壱馬先輩に頼って生きてきたんだろうって悲しくなる
強くなった気がしてたけど、そんなの気のせいだったんだ

生きてても…何も楽しくなくなっちゃった






星｢Aせんせ！？｣






…星羽くんの、声
よく会うなぁ
ここら辺、星羽くんの生活圏だもんね






星｢旅行！？｣


『…』


星｢違うよね…。え、家出？｣






説明する気力がなくて
家出ではないけど…と思いながらも頷いた






星｢えっ…！行くとこは？｣






家族のとこに行く、と決めたのに
星羽くんを目の前にしたらその決意は簡単に揺らいで
星羽くんなら何とかしてくれそうで
首を横に振った

嘘…ついちゃった






星｢ホームレス！？そんなの絶対だめ！今綺麗じゃないけど…家くる？ていうか、来て！｣


『…、』


星｢今ちょうどルナとケイのこと保育園に送ってきたとこだったんだ。だからこれから掃除とかしようと思ってたから…。嫌じゃなかったら、来て｣


『…』


星｢…あぁ〜っ、もお！やっぱり連れてく！Aせんせー、ほっといたらどっかで倒れてそうで怖いよ｣






わたしのキャリーを掴んで
ずんずん前に進んでいく

嘘ついたのはわたしなのに
星羽くんなら絶対家来てって言うってわかってて嘘ついたのに
今更申し訳なくなってくる

こんなの、利用したみたい
星羽くんの優しさを…利用したみたいだよ






星｢お〜い？何してんの、歩くの疲れた？俺の骨折れてるけどおんぶできるかな｣






ほい、とわたしの前に背中を向けてしゃがむ
キャリー持って、わたしのことおんぶするつもり？

星羽くんの予想の斜め上をいく行動に
ふふ、と少しだけ笑えた




.

いつまでも→←名前を

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す