角砂糖に溶ける夢２【北×樹】

お母さん ページ34

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リビングのテーブルの上には
借りてきたのであろうDVDが置いてあった






樹｢選んでいいよ｣


『え、樹くんが観たいやつは？』


樹｢全部観たくて借りたから。なんでもいい｣


『ふーん、なら選んじゃお』






なんの情報もないから
タイトルだけで選ばなきゃな

あっ、これ有名なやつだ
気になってたけど観れずに終わったんだよね

これにしようかなー、って思ってたら
ふと香ってきたコーヒーの香り






『またコーヒーいれたでしょ』


樹｢うん｣


『苦手って知ってるくせに』


樹｢今日もあるよ｣






キッチンの奥で
角砂糖が入った入れ物をゆらゆら揺らす

…確かに甘くておいしかったけど

持ってきてくれたのは
ブラックコーヒーとミルクが入ったもの

ミルクの方をわたしに差し出す






樹｢観たいの決まった？｣


『うん！これがいい』


樹｢…へぇ｣


『何その反応』


樹｢別になんでもないです。セットしちゃうからこれいれてて｣






笑いながらわたしからDVDを受け取って
角砂糖を指さした

…この前は3つでちょっと苦かったんだよね
今日は4つにしてみる？

4つ目を持ったまま、どうしようかと固まってたら
樹くんの指が とん、 とわたしの手を揺らして
角砂糖はそのままコーヒーに溶けていった






『悩んでたのに！』


樹｢甘いの好きなんだからいれて正解でしょ｣


『まぁ…』


樹｢苦いのが苦手な人でも、角砂糖が溶けたら甘くなって、幸せだーって思えるんですよ｣


『…急にどうしたの』


樹｢母親から言われたことです｣






わたしのコーヒーをスプーンで混ぜてくれる
DVDは再生されてて
映画の予告が流れ出していた






『お母さんが角砂糖好きだったんだっけ？』


樹｢そうです｣


『お母さんは近くに住んでるの？』


樹｢……一昨年、｣






何かを言いかけて口を噤んだ
映画の予告の音だけが耳に入ってくる

この、反応は…






『亡くなっ…ちゃった？』


樹｢……長いこと入院してたんで、いきなりってわけじゃなかったんですけど｣


『そ、なんだ…。お父さんは…っ、！？』






お父さんはどうしてるの？

そう聞こうとした瞬間
驚く程の強さでわたしの手首を掴んだ

ギリギリと締め付けられる
いつもの樹くんじゃ、ない






『いっ…つきく…、痛っ…』


樹｢…っ、｣






自分で掴んだのに
心底驚いた顔で手を離した




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