恋を彩る音楽達【特撮短編集】

城戸真司×どろどろ (ﾘｸ) ページ20

どろどろ/吐息

どろどろ。濃縮され、咽せるほどのこの気持ちを持った、持ってしまった私に対して、この男はなんて酷い事を言うのだろう。穏やかな気持ち、楽しい気持ち。もうそんなの到底超えてしまったこの気持ちを、私はこれからどうしたら良いんだろう。

「……飽きたってこと？」

「そんな言い方するなって」

「はいかいいえで答えて。飽きたの？」

真司の沈黙が、答えだった。否定出来るのなら真司は真っ先に否定する。この答えを察するくらいには、私は城戸真司という男に溺れていた。この、どろどろとした気持ちに溺れて、息を吸おうにも喉を蹂躙して肺に入り込んで、動けなくなってしまっていた。こんなはずじゃなかったのに。

「裏切るの？ 私を？ あれだけ好き好き言っといて？」

「裏切る訳じゃない。ほんとに、あの時は本気でAの事が好きだった。そこに嘘は無いんだよ」

あの時は。今は違うってこと。本当に、どこまでも正直な男。そういうところが、好きになってしまった。ここまで来るといっそ呪いだ。別れるくらいなら、初めから私の事を肯定しないで欲しかった。

「……なんで好きなんて言ったのよ」

ぐちゃぐちゃする。心が、この気持ちが、愛が。ぐちゃぐちゃとかき混ぜられて濁って、気持ち悪いほど苦いのにそれが無いとダメになってる。

「わかってるよ。本当に私の事を気にかけてくれてたのも、私の事を本気で愛してくれたのも。わかってる」

「……ごめん」

「疲れるのも分かる。人を愛するのだって、意外と疲れるし。でも、でもさ」

あぁ、ダメだ。なんか言葉が止まらない。私だって経験がある。人を精一杯愛した後に疲れて反動が来ちゃうのも、わかる。けど、けど。どうして、どうして。

「なんで私がこんなに好きになってから、手を離すの……？」

間抜けなのは、まるで私みたいになってる。悪いのは真司なのに。コイツが全部悪いのに。
病気みたいな重い心。愛してる、なんて、好き、なんて、言わないでいてくれる方が良かった。結局最後の方はそれも形だけだったんでしょ。言えばいいって思ってたんでしょ。そして、手を離したんでしょ。どろどろの私から。

「ひとりに、させないでよ……」

縋るように涙が零れたけど、真司はもう縋らせてくれなかった。

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