恋を彩る音楽達【特撮短編集】

宝生永夢×高嶺の花子さん ページ19

高嶺の花子さん/backnumber

一目惚れは実在した。今までは、内面も知らないのにそんなにすぐに人を好きになるなんて、信じてなかったけど。ただ、何を隠そう僕自身が一目惚れしてしまったんだから仕方ない。

研修医仲間に誘われた飲み会での事だった。あんまり飲み会には参加したくなかったけど、いつも断っていたら印象も悪いかな、と思って参加したのだった。
彼女、Aさんもそこに居た。幹事となる女性の、大学時代の友達らしい。医者では無いと聞いたから、学部が違う友達だったのだろうとなんとなく思っていた。そのくらい、話に聞いた段階では特に注目もしてなかった。

しかし、居酒屋の個室に居たのは、肩までの黒髪と真っ赤なリップの、とても美しい人だった。
しかも彼女は美しいだけじゃなく、表情をころころと変える姿は可愛かったし、誰とでも打ち解けて仲良くなり、相槌も優しいとても素敵な人で。出会って1時間後には、すっかり目で追うようになってしまった。

「宝生、Aと全然話してなくなーい？」

突然僕が呼ばれたから、思わず彼女を見過ぎていたのかと焦った。相変わらず人気者なAさんは、「困ってるでしょ」と笑いながら僕を見る。

「Aね、弁護士なの」

「まだ新人だけどね」

「え、すごい」

「凄くないよ〜」

「いやいや凄いから！ 司法試験現役合格だからね」

抜群の容姿の上に頭まで良いと来た。もうここまで来ると、高嶺の花、って感じだ。生まれてきた星が違う。きっと彼氏も居るんだろう。焼けた肌の洋楽好きな彼氏とか。

「宝生さんも、お仕事頑張ってくださいね」

その笑顔に、心臓が苦しいくらい絞られた。本当に美しい、なのに何処か可愛い笑みだったのだ。ただの知人Ｂなのに、向ける笑顔があんなにも可愛いなんて。恐ろしい人だ。

たった、それだけ。
その後に何か特別話した訳でもなく、あれ以来会ってない。連絡先は交換したけど、海に誘う勇気も車も無い。

あぁ、でも。

この病院からの帰り道。茹だるような暑さの中、あの角からAさんが飛び出してきてくれればいいのに。夏の魔物とやらに誑かされて、僕の元に。
生まれた星が違っても、夏の魔法とやらの力で、僕のものにーー。

「なるわけ無いかぁ……」

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