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「……、」
無意識に両手を握りしめ、殺気を身にまとう。そんな私を見て、ジェイムズが口を開いた。
「…君を任務に送り出す前に、ひとつ聞いておこう」
「……?」
なんの話だろうと首を傾げると、目尻の下がった目がスッと細まる。
「あの問いの答えは、見つかったかね?」
「―――!」
一瞬だけ、目を見開いた。それから、ゆっくりと首を振る。
「…いいえ、まだ」
そうか、とジェイムズが呟くのを聞きながら、くるりと墓石に背を向けて歩き出した。
「…入口で車を待たせてある。もちろん、君の荷物も乗車済みだ」
「ふふ、ありがとうございます。…それでは」
後ろから追いかけてくるジェイムズの声にくすりと笑って、肩越しに振り返る。
「行ってきます―――ジェイムズ」
「ああ。…健闘を祈るよ」
そう言ったジェイムズの顔は、どこか悲しげに微笑んでいた。
***
小さくなっていく後ろ姿をじっと見つめる。
“ジンに対する殺意が、潜入捜査の隠れ蓑になる”
そう提案したのは、彼女自身だった。
彼女を真に案じるなら、自分がその任命を拒絶するべきだったのだろう。ジンに近づけば近づくほど、彼女が苦しむことは分かっていたのだから。
だが、それらを全て度外視した時、最も適任だったのが彼女だった。
「…すまない」
彼女を潜入捜査官にと後押ししたのは自分だ。
そしてこの後押しこそが、彼女を任命する決定打となった。
「…私は、君を苦しめてばかりだな」
復讐心を燻ぶらせたまま、FBIという名の枷をはめ、挙げ句に仇の元へと送り出す。
それは一体、なんという地獄だろうか。
…せめて。
―――“To be, or not to be, that is the question.”
未だ見つからないその問いの答えが、我々を悲しませるものでないことを願おう。
だから。
「どうか赦しておくれ―――湊(ミナト)君」
振り向いた先の墓石は、ただ静かに、沈黙していた。
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Case.253→←Case.You -22 years old-
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胡蝶(プロフ) - 来来(きままに更新)さん» コメントありがとうございます!一気読み頂いたうえにそんなお褒めの言葉まで…!嬉しいです…噛みしめますね…。さて、二幕も終盤でございます。遅筆ですが、どうぞ最後までお付き合い下さいませ! (9月6日 0時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
来来(きままに更新)(プロフ) - ついつい一気読みしました。文章力もそうですがギムレットの感情、安室との絡み全てが好きです!尊敬します! (9月5日 12時) (レス) @page45 id: b6c1688bfb (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 胡蝶さん» まさかお返事をいただけるなんて(;ω;)とっても嬉しいです!!もちろんお楽しみにしながら待ってます!!!♡ (7月25日 20時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ゆいさん» コメントありがとうございます!そして、嬉しいお言葉をありがとうございます!タイムセールもお楽しみ頂けたようで何よりです笑 のんびり更新ですが、二幕も終盤に差し掛かりました。どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。 (7月24日 23時) (レス) @page19 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 卵のくだりがすごく面白かったです笑 (7月24日 22時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2023年7月10日 8時