Case.You -22 years old- ページ9
白いカーネーションと、白いユリ。
2種類の花で作った花束を抱え、墓石に刻まれた名前をそっと撫でた。
「―――…」
風に溶けるような小さな声でその名を呼ぶ。すると、墓石に並ぶように影が伸びた。
「…私の居場所は、貴方にはお見通しみたいですね」
小さく笑って、影の主を振り返る。
「どうしてここだと思ったんですか？―――ジェイムズ」
ジェイムズは、いつもの穏やかな瞳で私を見ていた。
「…このタイミングで、君が行き先も告げずに向かう所といえば、ここしかないだろう？」
「…さすが。私のことをよく分かってますね」
「これでも7年見てきたからな。君のことはそれなりによく知っているつもりだよ」
「ふふ、そうでした」
くすくすと笑っていると、ジェイムズが私の隣に立って、墓石の名前に目を向ける。それにつられるようにして、私も墓石に向き直った。
「…潜入捜査が始まれば、次はいつ来られるか分からないでしょう？そう思ったら、自然と足が向いてました」
抱えていた花束を置き、両手を組んで祈る。
その間、ジェイムズはじっとその場で待っていてくれた。
「―――…ありがとうございます」
「もういいのか？」
立ち上がった私に、ジェイムズが尋ねてくる。
「ええ、もう十分です。…それに、どうやらフライトの時間も迫ってるみたいですし」
ね、と小首を傾げれば、ジェイムズは眼鏡の奥で軽く目を瞠った。
「君にはこれから伝えるつもりでいたのだが…いつの間に？」
「貴方が来たからですよ、ジェイムズ。私の居場所が分かってるなら放っておけばいいのに、わざわざ呼びに来たってことはそういうことでしょう？」
違いますか、とダメ押しすると、ジェイムズは観念したように肩をすくめた。
「なるほど、さすがの洞察力だ」
「それで、行き先は？」
賛辞を流して先を急かすと、ジェイムズの目がちらりと私を見る。
「―――日本だ」
今度は、私が目を瞠る番だった。
日本。…日本か。
「…いいですね。いつか行きたいと思っていたんです」
それは私の、もうひとつの祖国。
こんなふうに訪れることになるとは、思ってもみなかったけれど。
「…そこに、あの男がいるんですね」
私の世界を狂わせた張本人。
―――ジン。
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胡蝶(プロフ) - 来来（きままに更新）さん» コメントありがとうございます！一気読み頂いたうえにそんなお褒めの言葉まで…！嬉しいです…噛みしめますね…。さて、二幕も終盤でございます。遅筆ですが、どうぞ最後までお付き合い下さいませ！ (9月6日 0時) (
レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
来来（きままに更新）(プロフ) - ついつい一気読みしました。文章力もそうですがギムレットの感情、安室との絡み全てが好きです！尊敬します！ (9月5日 12時) (レス) @page45 id: b6c1688bfb (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 胡蝶さん» まさかお返事をいただけるなんて(；ω；)とっても嬉しいです！！もちろんお楽しみにしながら待ってます！！！♡ (7月25日 20時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ゆいさん» コメントありがとうございます！そして、嬉しいお言葉をありがとうございます！タイムセールもお楽しみ頂けたようで何よりです笑 のんびり更新ですが、二幕も終盤に差し掛かりました。どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。 (7月24日 23時) (レス) @page19 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 卵のくだりがすごく面白かったです笑 (7月24日 22時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：胡蝶 | 作成日時：2023年7月10日 8時
