Case.278 ページ47
正確には“手伝った”が正しいのだが、それはこの際気にしなくていいだろう。
たくさんの野菜をみじん切りにした具沢山のチキンスープは、以前ギムレットが風邪を引いた時にスコッチと一緒に作った。あの時も夜通しギムレットの看病をしていたから、僕も夜食代わりにチキンスープを食べた覚えがある。風邪でなくても食べたくなる味だった。
「そうだったのか。だが、これは家庭によって味が変わるのでね。我が家の味も君の口に合うと良いのだが」
そう言って、老人は肩をすくめる。
なるほど、家庭の味だったのか。
ではあのレシピは、シェリーとAどちらかの家庭の味だったのだろうか。
どちらだったとしても、個人的には少々気になるところではある。
「…いただきます」
妙なところへ思考が飛びかけたのを断ち切り、一言断ってスプーンを口に運ぶ。
「……っこれは…!」
ぽろりと驚きがこぼれた。
「…口に合わなかったかね?」
僕の反応が拒絶だと勘違いしたのだろう。心配そうに声をかけられて、僕は慌てて首を振った。
「いえ、そうではなく…っ、とても美味しいです!ただ、驚いて…」
「驚いて?」
どういうことかと片眉を上げる老人に、実はと口を開く。
「同じ味だったんです。…以前作ったものと」
家庭の味だというなら、諸々の分量は基本目分量だろう。それが、記憶の中とほぼ変わらない味がする。
老人は丸く目を瞠った。
「そうか…赤井君はあのレシピを君に渡したのだね」
「…赤井が…レシピを…?」
その瞬間、頭の中で線が繋がった。
スコッチと作ったチキンスープのレシピは、ライが持ってきたものだ。つまり、“シェリーが書いた”というのは出どころを誤魔化す為のフェイクで、本当は赤井が気を利かせてこの老人に尋ねたということなのだろう。
それが分かったから、あの時ギムレットは意外と口にしたのだ。
あの言葉はライに向けてのものだったんだな…。
ひとりで納得しかけて、はたと止まった。
だとするとAは、食べただけで誰のレシピか分かったということになる。つまり、それだけA自身が食べ慣れている味なのだ。
と、いうことは。
「もしかして貴方は…Aのお父――!」
導き出した答えを口走ると、老人は困ったように笑って首を振った。
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胡蝶(プロフ) - 来来(きままに更新)さん» コメントありがとうございます!一気読み頂いたうえにそんなお褒めの言葉まで…!嬉しいです…噛みしめますね…。さて、二幕も終盤でございます。遅筆ですが、どうぞ最後までお付き合い下さいませ! (9月6日 0時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
来来(きままに更新)(プロフ) - ついつい一気読みしました。文章力もそうですがギムレットの感情、安室との絡み全てが好きです!尊敬します! (9月5日 12時) (レス) @page45 id: b6c1688bfb (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 胡蝶さん» まさかお返事をいただけるなんて(;ω;)とっても嬉しいです!!もちろんお楽しみにしながら待ってます!!!♡ (7月25日 20時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ゆいさん» コメントありがとうございます!そして、嬉しいお言葉をありがとうございます!タイムセールもお楽しみ頂けたようで何よりです笑 のんびり更新ですが、二幕も終盤に差し掛かりました。どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。 (7月24日 23時) (レス) @page19 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 卵のくだりがすごく面白かったです笑 (7月24日 22時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2023年7月10日 8時