Case.249 ページ5
「蘭ちゃんとは仲良くさせてもらってるわ。こちらこそ、よろしくお願いするわね」
そう言って、Aは自ら右手を差し出した。それを見た毛利小五郎のテンションがさらに高調する。
「ほう、握手ですか!なるほど、アメリカ式ですなぁ!」
Aの手を握った彼は、誰の目にも明らかなほど鼻の下を伸ばしていた。
「………」
あの状態でAに触られるのは、正直ちょっと、いやかなり嫌だが、理性を総動員させて本能を鎮める。
Aは普段、握手を求めない。にも関わらず握手を求めたのは、おそらく相手が蘭さんの父親で、彼と友好関係を築くのはビジネスの一環という感覚なのだろう。
スッと手が離れたのをホッとした気持ちで見ていると、相変わらずデレデレと緩んだ顔の毛利小五郎が、おもむろに両手を持ち上げた。
「んじゃ、アメリカ式でハグの方も…」
「――え?」
思いもよらない発言に、Aが固まる。
「は?」
僕も固まる。
しかし毛利小五郎は、Aの反応に気づいていないのか下心丸出しで腕を伸ばしてきた。
「ちょ、毛利先生――」
止めようと腰を浮かせた、瞬間。
Aの身体が、恐怖にすくんだのを見た。
「っ!」
瞬時にAを後ろに引き寄せ、庇うように抱き込む。
「…あ、…とおる…」
一瞬遅れて僕に庇われたことを認識したのか、Aはホッとしたように身体の力を抜いた。
「…すまない、動くのが遅れた」
「…ん…」
栗色の頭がこくりと頷く。それを安心させるように撫でた後、僕は毛利小五郎を睨みつけた。
「毛利先生!女性相手に男性からハグを求めるのはマナー違反です!」
「え、そなの?」
「………」
思わず怒鳴りつけてしまったが、意外と素直に聞き入れられて、逆に毒気を抜かれてしまう。
そういえばこういう人だったな。
こっそりため息をついてから、気持ちを落ち着けて諭しにかかる。
「確かに握手もハグも挨拶ですが、異性同士で行う場合は、女性側が求めなければしてはいけないんですよ」
「そ、それは申し訳ない…」
そう言うと、毛利小五郎はペコペコとAに頭を下げた。
「…大丈夫よ。知らなかったんだもの、仕方ないわ。…でも、次からは気をつけて」
「はいっ、もちろんっ!」
全力で頷く彼に、Aがくすくすと笑う。
もう大丈夫そうだな。
抱き込んでいた腕をそっと解くと、Aがちらりと僕に視線を向けた。ありがと、と唇が動くのを見て、僕も微笑んで返す。
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胡蝶(プロフ) - 来来(きままに更新)さん» コメントありがとうございます!一気読み頂いたうえにそんなお褒めの言葉まで…!嬉しいです…噛みしめますね…。さて、二幕も終盤でございます。遅筆ですが、どうぞ最後までお付き合い下さいませ! (9月6日 0時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
来来(きままに更新)(プロフ) - ついつい一気読みしました。文章力もそうですがギムレットの感情、安室との絡み全てが好きです!尊敬します! (9月5日 12時) (レス) @page45 id: b6c1688bfb (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 胡蝶さん» まさかお返事をいただけるなんて(;ω;)とっても嬉しいです!!もちろんお楽しみにしながら待ってます!!!♡ (7月25日 20時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ゆいさん» コメントありがとうございます!そして、嬉しいお言葉をありがとうございます!タイムセールもお楽しみ頂けたようで何よりです笑 のんびり更新ですが、二幕も終盤に差し掛かりました。どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。 (7月24日 23時) (レス) @page19 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 卵のくだりがすごく面白かったです笑 (7月24日 22時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2023年7月10日 8時