微睡みに落ちる７【降谷零/安室透】

Case.276 ページ39

「んッ！」

Aはびくりと身体をこわばらせると、反射的に僕の胸を押し返そうとする。
させない。
背中に腕を回して、動けないように抱きしめた。

「んんッ、ぅ〜ッ！」

Aが腕の中で身を捩る。その力が少し弱くなったのを見計らって唇を離し、一呼吸したところでもう一度塞ぐ。

「や、んッ、ばーぼ、ん、ぅ…！」
「………」

弱い上顎を擽って、彼女の身体から力が抜けるのを待った。

「―――…」

不意に、ぱたんと床に手が落ちる。唇を離すと、かくりと弛緩した身体が僕に寄りかかった。

「…落ち着きました？」
「…、ん」

頷く気力もないらしい。小さな返事だけが返ってきた。

「いいですか、ライム。あれはライです」
「…ライ…？ジン、は…？」
「ジンは居ません。ここには僕とライだけです。…だから、安心して眠ってください」

耳元で優しく囁いて、そっと頭を撫でる。

「…そ、なの…？…よかった…」

Aはホッと表情を緩ませると、うとうとと瞼を下ろしていく。それを静かに見守っていると、ねぇ、と彼女の口が開いた。

「…私が起きるまで、そばに居て―――零」

言い終わると同時に、Aはすとんと眠りに落ちる。
…当たり前だろう。

「初めからそのつもりだよ、…A」

そう小さく返事をして、意識のない身体を抱き上げた。

「…待たせたな」

コンテナの外で待機していた赤井に声をかける。赤井は眠っているAをちらりと見て、ほんの少し渋い顔をした。

「迂闊だったよ。まさか煙草でああも取り乱すとは…」
「ジンに接触した直後だったからな…タイミングが悪かったんだろう」
「かもしれんが…君が居てくれて助かった」

肩をすくめて、赤井は倉庫の外へと足を向ける。

「時に、安室君。不本意だろうが、この後は俺の車に乗ってくれないか？」
「はあ？」

なんで僕がお前の車に乗らなきゃいけない？
思いっきり嫌そうな声が出てきた。赤井が困ったように苦笑する。

「嫌なのは分かるが、我慢してくれるとありがたい。…多分、君から離れたくないだろうからな」

とん、と自分の腹の辺りを指差して、赤井はくるりと背を向けた。
腹…？
そこがどうかしたのかと目を落とし、理解した。

「…くそ、仕方ないか…」

本当に、心の底から嫌で嫌で仕方がないが、これはなんとも致し難い。
僕の車の回収は、後で風見に頼んでおこう。


眠っていて意識のないはずのAが、僕の服をぎゅっと握っていた。

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