Case.275 ページ38
「どうしてコードネームを…?」
「…もしかすると、熱で混濁しているのかもしれんな…」
赤井の推測に、なるほど確かにと納得する。
ついさっきまで、そこにジンがいたのだ。極度の緊張状態が続いていたはずだし、この高熱と相まって、組織にいた頃の記憶と混濁してもおかしくはない。
「A、俺のことは分かるか」
そう言って、今度は赤井が彼女の顔を覗き込む。
その瞬間、ヒュウ、と嫌な呼吸音がした。
「―――く、るな…ッ!!!」
まるで吐き出すように叫んで、Aは赤井を恐怖と嫌悪のこもった目で睨みつけた。
「な…A…!?」
突然の豹変ぶりに面食らう。
一体どうしたんだ…!?
この剣幕は尋常じゃない。ギムレットはライを好いてはいなかったが、ここまで嫌悪もしていなかったはずだ。
赤井も予想外の事態に困惑しているらしい。
「…お前まさか、俺を誰かと間違えているのか…?」
「アンタ、何、しにきた、の…ッ!」
赤井の言葉に反応することもなく、Aは途切れ途切れに声を絞り出す。息苦しそうに胸を押さえていて、短くて早い呼吸を続けていた。
これは…!
「落ち着いてくれ、A!君、今過呼吸に――」
宥めようと手を伸ばした瞬間、それは勢いよく払い除けられた。
「うる、さ…ッ!なんで、バーボン、が…ジンと、一緒に…ッ!!」
「……!」
そういうことか!
「赤井、煙草の匂いだ!」
「!なるほどな…!」
赤井は瞬時にコンテナの外へ出る。
多分Aは、匂いで相手を判断したんだろう。ギムレットの頃から、Aは煙草と硝煙の匂いを嫌っている。その理由がジンを想起させるからだということは後で知った話だが、熱で意識が朦朧としていたなら、煙草の匂いで赤井をジンだと思い込んでもおかしくはない。
僕は強引にAの肩を掴み、もう一度目を合わせた。
「A、あれは赤井だ。ジンじゃない」
「や、いや!離して…ッ!」
「聞いてくれ、A。ジンはここには居ない。大丈夫だ」
「離して、バーボン…っ、離して、離せ…ッ」
ダメか…!
優しく声をかけても、恐慌状態で聞こえていないらしい。僕の手を引き剥がそうと、躍起になってもがくばかりだ。
それなら。
「聞いてください、―――ライム!」
「っ、」
一瞬、Aの動きが止まる。
その隙に、僕は彼女の体を引き寄せ、
―――唇を塞いだ。
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胡蝶(プロフ) - 来来(きままに更新)さん» コメントありがとうございます!一気読み頂いたうえにそんなお褒めの言葉まで…!嬉しいです…噛みしめますね…。さて、二幕も終盤でございます。遅筆ですが、どうぞ最後までお付き合い下さいませ! (9月6日 0時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
来来(きままに更新)(プロフ) - ついつい一気読みしました。文章力もそうですがギムレットの感情、安室との絡み全てが好きです!尊敬します! (9月5日 12時) (レス) @page45 id: b6c1688bfb (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 胡蝶さん» まさかお返事をいただけるなんて(;ω;)とっても嬉しいです!!もちろんお楽しみにしながら待ってます!!!♡ (7月25日 20時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ゆいさん» コメントありがとうございます!そして、嬉しいお言葉をありがとうございます!タイムセールもお楽しみ頂けたようで何よりです笑 のんびり更新ですが、二幕も終盤に差し掛かりました。どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。 (7月24日 23時) (レス) @page19 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 卵のくだりがすごく面白かったです笑 (7月24日 22時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2023年7月10日 8時