Case.274 ページ37
「どうした、安室君」
「…そこに、」
手形があった。コンテナの側面に、寄りかかるようにして跡が残っている。
…A?
ふらりと足が動く。数歩近づいたところで、床の足跡に気づいた。雨漏りで滲んで見づらくなっているが、この形はハイヒール。それを視線で辿り、その先のコンテナを見て直感した。
「―――っ!」
一息でコンテナの扉に飛びつくと、察した赤井がこちらへ駆け寄ってくる。
その間に扉を開ききると、目に飛び込んできた光景に息を呑んだ。
壁に背中を預け、荒い呼吸を繰り返し。
かくりと首を落として動かない―――Aが、居た。
「―――Aっ!!」
悲鳴のような声が出る。
コンテナに踏み込み、彼女の体に触れると、その熱さに目を瞠った。
すごい熱だ…!
しかも、雨に打たれたのか全身が濡れている。寒いのだろう、吐息が震えて、指先は冷え切っていた。
「その様子…やはり風邪が悪化したか」
「…風邪気味だったのか?」
「ああ。薬を買いに行くと言って出かけたところだった」
隣に膝をついた赤井が、おもむろにAの上着のポケットを探る。すると、中から棒付きキャンディを取り出した。
「発信器はここに入れていたか…」
「…それが?」
見た目は普通の棒付きキャンディだ。まさかこれに発信器がついているなんて。
「機能は発信器だけではないが…まぁ、今度Aに聞くといい。開発には彼女も関わっているからな」
「…そうか」
なるほど、Aも関わっているのなら分からなくもない。
「とりあえず、Aの熱が高すぎる。早く安静にさせないと…」
「先程工藤邸へ連絡を入れた。有希子さんが準備をしてくれているが…君もこのまま行けるか?組織の方は…」
「問題ない。僕も任務帰りだったんだ。ちょうどベルモットと一緒で、ジンのことはあの女に任せて――…」
その時、Aがぴくりと身じろいだ。ハッと目を向ければ、うっすらと開いた瞼から、薄いグレーが覗いている。
気がついたのか…!
ホッと息をつきかけたが、ぼうっと虚空を見つめるような瞳を見て思い留まる。おそらく、意識がはっきりしていない。
「…A?」
こちらから視線を合わせてみると、虚空を見ていた瞳がゆっくりと瞬いて。
「…バーボン…?」
「…え?」
紡がれた名前に、思わず聞き返してしまった。
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胡蝶(プロフ) - 来来(きままに更新)さん» コメントありがとうございます!一気読み頂いたうえにそんなお褒めの言葉まで…!嬉しいです…噛みしめますね…。さて、二幕も終盤でございます。遅筆ですが、どうぞ最後までお付き合い下さいませ! (9月6日 0時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
来来(きままに更新)(プロフ) - ついつい一気読みしました。文章力もそうですがギムレットの感情、安室との絡み全てが好きです!尊敬します! (9月5日 12時) (レス) @page45 id: b6c1688bfb (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 胡蝶さん» まさかお返事をいただけるなんて(;ω;)とっても嬉しいです!!もちろんお楽しみにしながら待ってます!!!♡ (7月25日 20時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ゆいさん» コメントありがとうございます!そして、嬉しいお言葉をありがとうございます!タイムセールもお楽しみ頂けたようで何よりです笑 のんびり更新ですが、二幕も終盤に差し掛かりました。どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。 (7月24日 23時) (レス) @page19 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 卵のくだりがすごく面白かったです笑 (7月24日 22時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2023年7月10日 8時