Case.273 ページ36
ベルモットをその場に残し、僕は単身廃倉庫へ向かっていた。
ハンドルを握り締め、焦燥感に煽られるままにアクセルを踏み込む。愛車のエンジンが、ヴォンと嘶きを上げた。
無事でいてくれ…!
祈るように願う傍ら、最悪の可能性が脳裏にちらつく。
――ねぇ、貴方…今どこにいるの?
ベルモットが硬い声でジンに問いかけた瞬間、彼女の目が僕に“行け”と命令した。
ほぼ同時にその場を飛び出し今に至るが、ベルモットの表情や会話の内容から察するに、ジンが廃倉庫の近くにいる可能性が高い。
それを風見に伝えようと連絡したところ、逆に報告を受けた。
――FBIからの情報です
――九条捜査官の安否は未だ不明ですが、発信器に動きは見られません
――現在、赤井捜査官が先行して向かっています
――そちらで一度合流をお願いします
それに、二つ返事で了承する。
赤井と合流なんて普段なら断固拒否するところだが、今はそんなプライドに構っている場合じゃない。
倉庫街へ到着し、甲高いスキール音を鳴らして停車する。近くにジンのポルシェは見当たらない。
既に移動したのか…?
だが、安心するのはAを見つけてからだ。気を引き締めて目の前の廃倉庫に飛び込むと、奥の方に人影が見えた。
「―――赤井…!」
「…来たか、安室君」
ちらりとライトグリーンがこちらを向く。
「そこに血痕がある。おそらく、Aを連れ去った例の2人組のものだろう」
「……!」
視線で血溜まりの場所を差され、小さく息を呑む。やはり、ジンはここにいたのだ。
ざぁっと血の気が引く。
「じゃあAは…!」
最悪の可能性が口をつきかけたところで、赤井がいや、と口を挟んできた。
「それを決めるのは早計だ。…これを見ろ」
そう言って、赤井が作業用の梯子の隣で片膝をつく。そこに引っかかっている物を見て、一気に不快感が湧き上がった。
「…手錠か」
「ああ。この鍵穴に、こじ開けたような跡がある。これを見る限り、Aは自分で拘束を解いたはずだ」
赤井の推測を聞いて、不覚にも少し安心してしまう。
良かった。全く動けないわけじゃなかったんだな…。
「…分かった。だが、Aの発信器はこの場所を示しているんだろう?もしここに居るのなら、きっとどこかに隠れて――…」
倉庫の中へ足を踏み入れ、辺りを見回したところでぴたりと視線が留まった。
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胡蝶(プロフ) - 来来(きままに更新)さん» コメントありがとうございます!一気読み頂いたうえにそんなお褒めの言葉まで…!嬉しいです…噛みしめますね…。さて、二幕も終盤でございます。遅筆ですが、どうぞ最後までお付き合い下さいませ! (9月6日 0時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
来来(きままに更新)(プロフ) - ついつい一気読みしました。文章力もそうですがギムレットの感情、安室との絡み全てが好きです!尊敬します! (9月5日 12時) (レス) @page45 id: b6c1688bfb (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 胡蝶さん» まさかお返事をいただけるなんて(;ω;)とっても嬉しいです!!もちろんお楽しみにしながら待ってます!!!♡ (7月25日 20時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ゆいさん» コメントありがとうございます!そして、嬉しいお言葉をありがとうございます!タイムセールもお楽しみ頂けたようで何よりです笑 のんびり更新ですが、二幕も終盤に差し掛かりました。どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。 (7月24日 23時) (レス) @page19 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 卵のくだりがすごく面白かったです笑 (7月24日 22時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2023年7月10日 8時