Case.270 ページ33
銃声の反響が、降りしきる雨にのまれていく。
絶命した男の鞄を探り、中からUSBメモリを取り出した。それをポケットに滑り込ませ、咥えていた煙草をふかす。
…バカな奴らだ。
“ギムレットを発見した”
つい先程リークされたその情報が、俺を欺く為のブラフだということは一瞬で見抜けた。
刺青の男に取り付けられていた発信器の位置を見れば一目瞭然だったが、そもそもギムレットの顔を知る者は俺が全て把握している。その中に、こんなリークをする人物はいない。
まぁ、瞳の色がグレーだということくらいは知られていそうだが。
ギムレットがコードネームをもらうまで、ベルモットはアイツを“グレーアイの子猫”と揶揄して呼んでいた。それが噂で広まっていたとしても、何も不思議はない。
「………?」
ふと、吐き出した煙の向こう側――作業用の梯子で、何かが鈍く光を反射した。
なんだ…?
不思議と気にかかって足を向けると、それが何かはすぐに分かった。
手を伸ばし、なぞるように触れる。カシャ、と金属の擦れる音が耳に障った。
――手錠だ。
男達を追って倉庫に入った時、ここには誰もいなかった。ブラフに裏付けができて、だからこそ一直線にここを目指した男達を、“行儀の良いネズミ”だと揶揄したのだ。
口だけで流したブラフだと思っていたが…。
その鍵穴には、こじ開けたような跡が残されている。
つまり、逃げたのだ。自力で。
男達がここを離れ、戻ってくるまでの数分のうちに。
ドクンと、血が熱くなる。
…居たのか。
口の端が吊り上がる。
奴らは、ギムレットの顔を知らない。にも関わらず、わざわざ身代わりを立てたということは、ギムレットの特徴に当て嵌まるものがあったのだろう。
そう―――
グレーの瞳という、唯一の特徴が。
思考がその結論に至ると同時に、ざっと周囲を確認する。
ハイヒールの足跡に、寄りかかるようにして付けられた女の手形。それらをひとつずつ追っていくと、ほんの少し扉の開いたコンテナに辿り着いた。
そして、その扉の隙間から――微かに。
熱に浮かされた吐息が、漏れ聞こえていた。
「――――…」
ほぼ無意識に手が伸びる。
指先が取っ手に触れた、―――その時。
「兄貴!」
「!」
唐突に聞こえたその声に、ぴたりと動きが止まった。
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胡蝶(プロフ) - 来来(きままに更新)さん» コメントありがとうございます!一気読み頂いたうえにそんなお褒めの言葉まで…!嬉しいです…噛みしめますね…。さて、二幕も終盤でございます。遅筆ですが、どうぞ最後までお付き合い下さいませ! (9月6日 0時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
来来(きままに更新)(プロフ) - ついつい一気読みしました。文章力もそうですがギムレットの感情、安室との絡み全てが好きです!尊敬します! (9月5日 12時) (レス) @page45 id: b6c1688bfb (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 胡蝶さん» まさかお返事をいただけるなんて(;ω;)とっても嬉しいです!!もちろんお楽しみにしながら待ってます!!!♡ (7月25日 20時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ゆいさん» コメントありがとうございます!そして、嬉しいお言葉をありがとうございます!タイムセールもお楽しみ頂けたようで何よりです笑 のんびり更新ですが、二幕も終盤に差し掛かりました。どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。 (7月24日 23時) (レス) @page19 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 卵のくだりがすごく面白かったです笑 (7月24日 22時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2023年7月10日 8時