Case.269 ページ32
「――――ッ」
どろり。
黒い感情が胸の内に滴った。
殺してやりたい。…この手で。
復讐を。あの男に、同じだけの苦しみを。
例えば、あの首に手をかけて。
例えば、あの喉笛を切り裂いて。
例えば、あの心臓を突き刺して。
その息の根を、止めてやる。
そんな想像を、一体何度繰り返しただろう。
それなのに。
パタッと、こぼれた雫が膝の上で弾けた。
「……っ、ふ……っ!」
肩を抱く手に、指に。
痛いくらいの力がこもる。
…悔しい。
今はこんなところで、隠れて蹲っていることしかできないなんて。
なんて―――惨めな。
コンテナの外で、じりっと後ずさる音が聞こえる。すかさず発砲音が邪魔をした。
「……っ」
男の絶叫が頭に響いて、ぎゅっと目を瞑る。足を撃ったのだと、見なくても分かるのが嫌だった。
「たすっ、助けで、くれ…ッ!盗んだ情報は…全部、消すッ!!だから――!」
「つれねぇこと言うじゃねェか。やっとドブから顔を出してきたんだ。せっかくなら違う場所に潜りてぇだろう?」
ゆったりと、まるでそれが善意であるかのように、ジンは絶望を語る。
「安心しろ。次はもっと、暗くて広い場所に潜らせてやる」
一歩、また一歩と、男に死が近づいていく。
「……、っ…」
ああ、…まずい。
耳元で心臓の鼓動が鳴り響く。
ぐにゃりと視界が歪み、徐々に身体の力が抜けていく。
「だ、だったら――いいのか…!?俺達はテメェが探してる、あの―――ぅぐ!?」
「黙れ」
銃口を口にねじ込まれたんだろう。喉を突くようなうめき声が聞こえた。
「っ、は…、…っ」
息が苦しい。
頭が割れそうなほど痛いのに、意識はぼんやりと霞がかっていく。
「…テメェごときが、思い上がるな」
ジンの声が、耳に届く。
それは底冷えのする、――温度のない声。
「ネズミが、猫を狩れるわけがねェだろう」
刹那、耳をつんざく銃声が、男の命諸共。
―――私の意識を、刈り取った。
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胡蝶(プロフ) - 来来(きままに更新)さん» コメントありがとうございます!一気読み頂いたうえにそんなお褒めの言葉まで…!嬉しいです…噛みしめますね…。さて、二幕も終盤でございます。遅筆ですが、どうぞ最後までお付き合い下さいませ! (9月6日 0時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
来来(きままに更新)(プロフ) - ついつい一気読みしました。文章力もそうですがギムレットの感情、安室との絡み全てが好きです!尊敬します! (9月5日 12時) (レス) @page45 id: b6c1688bfb (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 胡蝶さん» まさかお返事をいただけるなんて(;ω;)とっても嬉しいです!!もちろんお楽しみにしながら待ってます!!!♡ (7月25日 20時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ゆいさん» コメントありがとうございます!そして、嬉しいお言葉をありがとうございます!タイムセールもお楽しみ頂けたようで何よりです笑 のんびり更新ですが、二幕も終盤に差し掛かりました。どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。 (7月24日 23時) (レス) @page19 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 卵のくだりがすごく面白かったです笑 (7月24日 22時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2023年7月10日 8時