微睡みに落ちる７【降谷零/安室透】

Case.268 ページ31

余韻のように音が反響する中で、何かがドサッと地面に転がったのが分かる。

死んだのだ。多分。

ひゅう、と喘ぐような呼吸が聞こえた。これはさっきまで叫んでいた、あの左利きの男。


そして。


――ざわり

――ざわり


さざ波が、心臓を少しずつ揺さぶり始める。


…嘘だ。


息が上がる。

震える吐息を抑え込もうと、両手で口を塞いだ。


こんな偶然はあり得ない。けれど今、―――確かに。





煙草の匂いが、した。




「――――…」

はくり、と息を呑みこむ。


居る。


足の力が抜け、その場でずるずると座り込んだ。

心臓が早鐘を打つ。
身体を小さく丸め、かたかたと震える肩を、血の気が失せて真っ白になった両手で抱きしめた。

…雨が、うるさい。

ざぁざぁと、叩きつけるような雨の音。
遠くでは雷も鳴っている。
時折ズキンと頭を突き刺す痛みと相まって、周りの音を全て掻き消してくれそうな程の音。

…その、はずなのに。


――カチリ


耳が拾うのは、銃を構える無機質な音。



居る。―――そこに、居る。



嘘。
嘘だ。
誰か嘘だと言って。

分かっているはずなのに、認めるのが恐ろしい。
バシャ、と水たまりが踏まれる。ひくりと息を呑む音は、雨に紛れてくれただろうか。


「さぁ―――」


冷徹な声。
この声を知っている。
聞きたくもないのに、いやに鮮明に、耳へと届く。


ああ―――嘘だ。



「――――遊びの時間は終わりだ」



そこに、―――ジンが居る。



「ハッ…自分から袋に入り込むなんざ、行儀の良いネズミじゃねェか」
「て、めェ……ッ！」

激昂する男に、ジンはくつくつと嘲笑う。

「途中でウォッカを撒いたことは誉めてやる。遊びが長引いたのはいただけねェがな」

「……ッッ！！」

その言葉に、私はギリッと奥歯を噛みしめた。

“遊び”

――“遊び”か。
アンタは、いつもそうだ。


――鬼ごっこは終いか、ギムレット


逃げる相手を追うことは、アンタにとってただの遊びと同じなんでしょう？
だからアンタはそうやって、簡単に人を殺せるのよ。

…あの時。


――悪く思うなよ


たったの1秒で、私の“世界”を。



湊(ﾐﾅﾄ)の命を、奪っていったように。


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