Case.266 ページ29
水たまりに、雫の落ちる音がした。
「……ん…」
意識が浮上する。うっすらと瞼を押し上げ、視線だけで周囲を確認した。
誰もいない…けど。
「…どこだろう、ここ」
倉庫街の内のひとつみたいだけど、乱雑に置かれたコンテナの錆がコンクリートの地面にまで移ってる。倉庫のトタンも腐食しているのか、あちこちで雨漏りして水たまりが出来ていた。ホコリもかなり溜まってるのを見るに、ここは随分使われてない廃倉庫なんだろう。
右腕の怠さに目を向ければ、倉庫の壁に取り付けられた作業用の梯子に手錠で繋がれていた。放置してる割に、一応拘束しておこうという気はあるらしい。
わざわざ連れてきたなら、何か目的があるはずだけど…。
あの時、左利きの男は私の瞳を見て態度を変えた。日本じゃグレーは珍しい色だけど、世界的に希少なわけでもない。
万が一どこかに売り飛ばすにしても、大した価値はつかないはずだし…。
「…まぁ、考えるのは後にした方がよさそうね」
分からないものを考えても仕方がない。とにかく今は、この状況をなんとかするのが先決だ。
自由な左手でポケットを探ると、指先にコツンと固いものが当たった。
「…あった…」
幸い、あのキャンディは取り上げられていなかったらしい。私の帰りが遅ければ、ジョディや秀一がこのキャンディの発信器を辿ってきてくれるはず。
のど飴代わりに舐めてたのが役に立ったな。
ほっと息をついたところで、ぶるりと体が震えた。
「…さむ、」
すっかり体が冷えきってる。あれだけ雨に濡れたら当然か。
「っくしゅん！…ったぁ…」
くしゃみの反動で、頭にズキンと痛みが走った。
「…あー…風邪悪化してる…」
殴られたところも痛いけど、それとは違う痛みだ。これは絶対熱が出てる。
「…最悪…」
ため息を吐き出して、左足のハイヒールへ手を伸ばす。ヒールの靴底に取り付けられたゴムを外し、中の空洞からピッキングの針金を取り出した。
備えあれば憂いなし…ってね。
手早く手錠を外して、針金とヒールを元通りにすると、梯子を掴んでゆっくりと立ち上がった。案の定、くらりと目眩に襲われる。頭も痛い。
とはいえ、ここで立ち止まってるわけにもいかない。コンテナに手を付きながら、気だるい身体を引きずるようにして歩く。片目のカラコンの所為か、視界がブレて鬱陶しい。
…外そう。
歩きながら外したカラコンを投げ捨てたところで、どこからか声が聞こえた気がした。
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胡蝶(プロフ) - 来来（きままに更新）さん» コメントありがとうございます！一気読み頂いたうえにそんなお褒めの言葉まで…！嬉しいです…噛みしめますね…。さて、二幕も終盤でございます。遅筆ですが、どうぞ最後までお付き合い下さいませ！ (9月6日 0時) (
レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
来来（きままに更新）(プロフ) - ついつい一気読みしました。文章力もそうですがギムレットの感情、安室との絡み全てが好きです！尊敬します！ (9月5日 12時) (レス) @page45 id: b6c1688bfb (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 胡蝶さん» まさかお返事をいただけるなんて(；ω；)とっても嬉しいです！！もちろんお楽しみにしながら待ってます！！！♡ (7月25日 20時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ゆいさん» コメントありがとうございます！そして、嬉しいお言葉をありがとうございます！タイムセールもお楽しみ頂けたようで何よりです笑 のんびり更新ですが、二幕も終盤に差し掛かりました。どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。 (7月24日 23時) (レス) @page19 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 卵のくだりがすごく面白かったです笑 (7月24日 22時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：胡蝶 | 作成日時：2023年7月10日 8時
