Case.260 ページ23
「…だったら、何よ…っ」
絞り出した声で言い返したけど、左利きの男はニタリと嗤うだけで答える様子はない。前髪を掴んでいた手が離され、がくりと地面に突っ伏した。
くそ…！
逃げないとと思うのに、体に力が入らない。意識が遠のきそうになるのを意地で堪えていると、鼻と口を覆うように布を当てられた。
「ッ！？」
薬で眠らせるつもり！？
反射的に息を止め、身を捩って全力で藻掻く。男の舌打ちが聞こえた。
「おい、女を押さえろ」
「了解」
「…っ、んぐ…ぅっ！」
片腕を取られ、背中で捻り上げられる。痛みにうめいた瞬間、薬を一気に吸い込んだのが分かった。
や、ば―――…！
急速に意識が遠のく。
力を振り絞って伸ばした手の先に、スマホが落ちているのが見えた。
「……れ、」
そこで、私の意識は途切れた。
＊＊＊
女の体からかくりと力が抜けたのを確認して、薬の染み込んだ布を外す。自分にならって拘束の手を緩めた弟分に、女を担げと命令した。
「兄貴、この女どうすんだ？」
「俺達の逃亡に一役買ってもらうんだよ」
そう、自分達は今追われているのだ。所属していた裏社会の巨大組織に、粛清対象として。
ずらかる前に、さっと周囲を確認する。女が持っていた傘とスマホが目についたが、この雨だ。指紋は消えるだろうし、スマホもすぐ水没する。放っておいても問題はないだろう。
「逃亡に一役って…どう使うんだよ」
「この女の目、グレーだっただろ？…何年か前に、噂で聞いたことがあんだよ」
ハッキングと諜報に長け、彼女に盗めない情報は無いとまで言わしめたネームド。
今自分達を追ってきている大幹部が、囲い込むほどに執着し、そして粛清した人物。
「あのギムレットも、グレーの瞳だったそうだ」
すると、女を肩に担いだ弟分はぽかんと口を開けた。
「え…ってことはまさか、この女が…？」
短絡的な言葉に、それはないだろうと否定する。
生死不明扱いとされてはいるが、現場に残っていた血痕の量や、その日が酷い雨だったのもあって、生存の可能性は絶望的だと言われていたのだから。
「だが、遺体は見つかってねぇから死んだって確証がねぇ。…ってことは、だ」
ちらりと女を見下ろす。
「“ギムレットを見つけた”と情報を流せば、ジンは必ずそっちを優先する。この女には、俺達が逃げる為の時間稼ぎになってもらうんだよ」
ニタリと、口の端を吊り上げた。
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胡蝶(プロフ) - 来来（きままに更新）さん» コメントありがとうございます！一気読み頂いたうえにそんなお褒めの言葉まで…！嬉しいです…噛みしめますね…。さて、二幕も終盤でございます。遅筆ですが、どうぞ最後までお付き合い下さいませ！ (9月6日 0時) (
レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
来来（きままに更新）(プロフ) - ついつい一気読みしました。文章力もそうですがギムレットの感情、安室との絡み全てが好きです！尊敬します！ (9月5日 12時) (レス) @page45 id: b6c1688bfb (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 胡蝶さん» まさかお返事をいただけるなんて(；ω；)とっても嬉しいです！！もちろんお楽しみにしながら待ってます！！！♡ (7月25日 20時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ゆいさん» コメントありがとうございます！そして、嬉しいお言葉をありがとうございます！タイムセールもお楽しみ頂けたようで何よりです笑 のんびり更新ですが、二幕も終盤に差し掛かりました。どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。 (7月24日 23時) (レス) @page19 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 卵のくだりがすごく面白かったです笑 (7月24日 22時) (レス) id: 245f7f2888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：胡蝶 | 作成日時：2023年7月10日 8時
