微睡みに落ちる７【降谷零/安室透】

Case.259 ページ22

「っくしゅん！」

またくしゃみが飛び出す。少し雨に当たったから、体が冷えたのかもしれない。なんなら頭も痛い気がする。
とりあえず零に電話…いや、直接風見さんに連絡した方が早いかな。
死人も出てるし、必要ならしかるべきところに回してくれるはず。
うん、そうしよう。
そう決めてスマホを取り出した時、ふと違和感を覚えた。

「……？」

なんだろう…何か見落としてるような…？
くるりと辺りを見回す。それから、手に持っているナイフに目を落として――

ハッと息を飲んだ。

右手にナイフを持っていたなら、この男は右利き。
でも、女性につけられた刺傷は右腹部と右胸下で、どちらも正面から刺された傷のようだった。
だとすれば、犯人は左利き。

―――つまり。


「…他に、仲間がいる…？」



「―――その通り」



背後から聞こえた声に振り向いた瞬間、視界に閃光が走った。

「――ぁ、ぐ…ッ！！」

一拍遅れて、右のこめかみに激痛が走る。たたらを踏んだ足が、踏み止まれずに体を地面へ投げ出した。

「ぅ、……く、そ…！」

倒れているはずなのに、ぐらぐらと景色が回る。
まずい、脳震盪だ…！

「へぇ、今ので気絶しねぇのか。大した女だ」

揺れる視界で、なんとか男を見上げる。
さっきの刺青の男より少し年上だろう。推測した通り、左手にナイフを持っている。左利きだ。

「それにしても、女ひとりに伸されちまうなんてなァ」

動けないでいる私の横を通り抜け、左利きの男は刺青の男の頬を叩いた。

「おら、起きろ」
「いってェ…ぁ？兄貴…」
「ったく、深追いすんなって言っただろうが」
「…わりィ」

揺れる視界の端で、刺青の男がよろめきながら立ち上がる。そして血走った目で私を睨むと、地面に転がる私を容赦なく蹴りつけた。

「オラッ！クソがッ！この女、ブッ殺してやる…ッ！」
「…ッ、ぅ゙、……ッ！」

うめき声を噛み殺し、私も負けじと睨み返す。

「んだよその目は！気に入らねェ――」


「待て」


突然、静観していた左利きの男が口を開いた。

「あ、兄貴…？」

まさか止められるとは思わなかったのか、刺青の男は足を下ろして戸惑っている。
左利きの男は私の前髪を掴んで持ち上げると、じっと目を覗き込んできた。

「…へぇ、そこらじゃ見ねぇ色だな。もう片方もカラーコンタクトってことは、両目ともグレーか？」
「……！」

殴られた拍子に、片目のカラコンが飛んだらしい。ぐらつく視界と殴られた痛みで気づかなかった。

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