微睡みに落ちる７【降谷零/安室透】

Case.257 ページ20

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嘘だ、と思った。


ドクドクと心臓が早鐘を打つ。
身体を小さく丸め、僅かに震える肩を抱きしめた。

うるさいくらいの雨音の中で、銃を構える無機質な音を耳が拾う。


嘘。

嘘だ。

誰か嘘だと言って。


必死で願う傍ら、自分の直感が正しいことも、頭では分かっていた。

バシャ、と水たまりが踏まれる。ひくりと息を呑む音は、雨に紛れてくれただろうか。


「さぁ―――」


冷徹な声。

この声を知っている。

聞きたくもないのに、いやに鮮明に、耳へと届く。


ああ―――嘘だ。




「――――遊びの時間は終わりだ」




それは、死神の声。




＊＊＊


「はい、これ。ジョディのでしょ？」

差し出した口紅を見て、ジョディはあっと声を上げた。

「あら、ホント！やっぱりあの家に忘れてきてたのね」
「有希子さんが見つけてくれたの。私のじゃないし、最近で一番可能性があるのはジョディかなって」
「そうだったのね…助かったわ。探してたのよ」

ジョディは数日前から工藤邸に泊まりに来ていて、昨日帰っていった。
ドレッサーに置いてあるのを見つけた有希子さんの、困ってるだろうから早めに返してあげましょ！という鶴の一声で、早々にジョディを呼び出す事になったのだ。

「有希子さんにお礼を言っておいて」
「OK、ちゃんと伝えておくわ。――くしゅん！」
「…A？」

堪えきれずに飛び出したくしゃみに、ジョディが片眉を吊り上げた。

「貴方もしかして、体調悪化してるんじゃない？昨日も喉の調子が良くないって言ってたでしょう？」
「ん…だから、これから薬を買いに行くの。今はこれ舐めて凌いでる」
「…え、これ？」

上着のポケットから取り出した棒付きキャンディ(特殊機能付き)に、ジョディが口元をヒクつかせる。

「貴方、よくそんなもの食べれるわね…」
「まぁ、この国でキャンディの通知を受け取れるのは私のパソコンくらいだし。私が食べる分には問題ないわ」

キャンディの包み紙を捲りながら、肩をすくめておどけてみせた。ジョディは全く…と呆れている。

「まぁいいわ。この後雨が降るって予報だし、早く行きなさい。帰ったらすぐに休むこと」
「言われなくても寝て過ごすつもり」
「ならいいけど…気をつけるのよ？」
「ん」

キャンディを咥えて、こくりと頷く。
片手を振ってジョディと別れ、薬局へと足を向けた。

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