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Case.166 ページ10

「だって、仕事に関してはアンタとフェアでいたいもの。今の関係を利用して情報を取ってると思われたくないし」
「考え方が同じで嬉しいよ。…だがな」
「え?――わ、」

彼女の膝裏に手を差し込み、横抱きにしてひょいと抱えあげる。

「まだ気が収まらないから、今日は帰さない」
「え」

抱えた身体が固まった。
どうやら帰るつもりだったらしい。抱き上げておいて正解だったな。

「…まだ仕事が残ってるんだけどなぁ」
「君ならその鞄の中にあるタブレットを使えば十分だろ?仕事を置いて僕の家に来たんだから、重要度の高い案件でもなさそうだ」

違うか、と問いかければ、Aは呆れたようにため息をついた。

「もう…仕事に口は出さないんじゃなかったの?」
「それとこれとは話が別だ。残念ながら、僕の心はそこまで広くないんだよ」

さらりとうそぶいて、リビングに足を向ける。

Aには悪いが、今日くらいは我が儘を通させてもらう。
それに、本当にダメならそう言うはずだ。なのに、こうして大人しく抱えられていてくれるのだから、彼女の答えはもう分かりきっている。

「だったら、和食のフルコースでも出してもらおうかしら?」
「任せてくれ。それならすぐに用意できる」

リビングに置いてあるベッドにAを下ろして自信満々に言ってやれば、彼女は残念と言いながらくすくすと笑った。

「それじゃあ、しょうがないから我が儘に付き合ってあげるわ」
「嬉しいな。どうやら僕の恋人は、随分と優しいらしい」

からかい半分に口にすると、Aは形のいい唇を吊り上げて。


「だって、他でもない零の頼みだもの」


そう言って、いつもの意地の悪い笑みを浮かべていた。

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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時

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