Case.165 ページ9
「いくら水面下で動くとしても、組織に勘付かれるリスクはその分高まる。だから、敢えてコンタクトを取ることで動きを牽制したんだろ」
「…まぁね」
確実に手紙を渡すために、変装して自ら近づいたのだということも、理解している。それがベルモット相手だからこその手法だということも。
だから、それに対しての怒りは僕が勝手に拗ねているだけにすぎない。
どちらかというと、あれがAだと見抜けなかった自分の方に腹が立っている。
ベルモットが手紙を見ている時、僕は耳打ちされるまで気づかなかったのだ。
――邪魔しないでね、零
髪はキャップでほとんど隠れていたし、カラコンはいつも使っているブラウンではなくブラックだった。派手めのメイクで雰囲気をガラリと変えていて、極めつけは変声器だ。全く違う声で、喋り方も変えていた。
それでも、ベルモットのような変装術ではなかったのに。
恋人の顔すら分からないとは、なんとも情けないものだ。これでよく公安が務まる。
「じゃあ……何?」
Aが眉を寄せた。どうやら本気で分からないらしい。
一歩、妙に空いた距離を無言で詰めた。
手を掴んでいる方とは逆の手を、Aの頬に添える。
「君が今どこに住んでいるのか…大体見当がついた」
「………」
視線が泳いだ。
「首に巻く変声器のことは、一度調べたからな」
「あー…」
うろうろと視線を彷徨わせ、Aは困ったように眉を下げた。
「…嫌?」
もちろん嫌だと即答したい。
だが。
「…それが君の仕事なら、口を出すつもりはない。…腸は煮えくり返るが」
地の底を這いずるような声で一言添えると、Aがくすくすと笑う。
「…笑うところじゃないぞ」
仏頂面でじろりと睨んだら、肩をすくめて躱された。
「律儀」
「君も似たようなものだろ」
お互い、付き合ってからは仕事に関する詮索はしていない。
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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時