Case.193 -Zero the Enforcer- ページ43
プツ、と無機質な電子音が耳に届く。
通話の切れたスマホの画面を見つめるその背中に、端的に問いかけた。
「―――返事は?」
緩慢に振り返った秀一は、そのライトグリーンの瞳を僅かに眇める。
「…『現在日本に入国している職務中の捜査官はおらず、また当該事件に関して本国は一切関与しない』―――その言葉に反するな、と」
最後に付け加えられた一言に、私はくすりと唇の端を持ち上げた。
「ふぅん…随分とありがたい回答をくれたものね」
その言葉に反するなということは、言葉通りの結果であれば問題ないということ。
「つまり、好きにしていいってことでしょ?物分りが良くて嬉しいわ」
すると、タイミングよく私のスマホが震えた。画面に表示された文章に、思わず笑みが溢れる。
「その顔…彼らはこちらが提示した条件を呑んだようだな」
「当然。もしかして、却下されるとでも思ったの?」
「…いや。だが、可能性は―――」
「ゼロよ」
その一言で言葉を遮ると、秀一は物言いたげな顔で静かに閉口した。
今の彼らは、手段を選んでる場合じゃない。使えるものは、どんなものでも使うはずだ。そこに私情は含まれない。
…だって。
「“命に代えても守る”―――そう言ってたもの」
「……!」
ぴくりと眉が跳ねる。ライトグリーンが一瞬揺らぎ、そっと瞬いた。
「…そうか」
ぽつりと呟き、呼吸をひとつ。
「それが、彼の正義か」
それ以上、秀一は何も言わなかった。
その言葉が何を意味するのか、瞬きひとつで理解したんだろう。
…当たり前か。
だってその信念は、私達も同じだから。
「…そろそろ行くわ」
ノートパソコンの入ったバッグを肩に掛け、持っていたキャップを深く被る。
A、と短く声がかかった。
「…お前相手に言うものではないと分かっているが、一応言っておく。―――ボロは出すなよ」
その分かりきった忠告に、ふっと短く笑みがこぼれて。
「―――誰に言ってるのよ」
くるりと踵を返したその足で、私は工藤邸を後にした。
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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時