Case.161 ページ5
「私に…ですか?」
「そう言ってましたよ。それに、お兄さんしか来てなかったら渡さなくていいって」
そう言って、女は私に手紙を差し出した。
「できれば1人で見てって言ってました。まぁ、気持ち悪かったら捨ててもいいと思いますけど」
「…口を挟んで申し訳ありませんが、手紙を渡してきたその女性…もう少し何か特徴はありませんでしたか?」
バーボンがちらりと視線をよこしてくる。
この男も気づいたのだろう。
この手紙の宛先は、変装している梓という女ではなく。
私――“ベルモット”なのだと。
本音を言えば、得体のしれない相手からの手紙なんて受け取りたくはない。けれど、わざわざこのタイミングを狙ってきたことが引っかかる。
バーボンのいる前でこんなことをすれば、この男が興味を持たないわけがない。“できれば1人で見て”というのも、裏を返せば見られても困らないということだ。
一体どういうつもりなの…?
「特徴かぁ…帽子被ってて、顔はあんまり…。あ、でも」
「瞳の色、確かグレーっぽい色だったかな」
息が、詰まった。
「――…グレーの、瞳…?」
まさか。
でも、その瞳の色は。
あの子の。
「一瞬見えただけだから、ちょっと自信ないけど…色素薄めのグレーだったと…」
そこで、バーボンの手がゆらりと動いた。
「ッ、」
反射的に女から手紙をひったくると、行き場のなくなった色黒の手が悔しげに握り込まれる。
「ベル、いや、梓さん」
相当動揺しているらしい。コードネームを口走りかけて、慌てて名前を呼びなおす。
気持ちは分かるけれど、これはあの子が私に宛てたもの。見せるつもりはない。
「安室さんはそこにいてくださいね」
言外に来るなと言い置いて、バーボンから数歩離れる。
「ですがそれは…っ」
「はいはい、お姉さんがダメって言ってるから、お兄さんは見ちゃダメですよ」
どうやらこちらに来ようとするバーボンを、さっきの女が上手く引き止めてくれているらしい。
…今のうちね。
封を開け、二つ折りにされた紙を開く。
そこには。
“Don't worry.
―――Lime”
「………」
え、終わり?
570人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時