Case.188 ページ38
視界の端を、黒い何かが横切った。
「うわ、何あれ」
「…どうした?」
思わず口をついた言葉に、沖矢の顔をした秀一がコーヒーを片手に顔を上げる。私が窓の外を指さすと、不思議そうな顔をして近づいてきた。窓の外を覗き込んで、小さく息を呑む。
「…まずいな」
そこでは、黒光りするドローンがデタラメな飛行をしていた。
しかもその下では、子供達が暴走ドローンから逃げ回ってる。
「多分、例の博士が作ったんでしょうね」
ため息をついて、私は近くのキャビネットからあるものを取り出す。
「まったく…こういう人騒がせなところを見てると、特殊科学班のメンバーを思い出すわ」
かちゃりと窓の鍵を外したところで、秀一は私が何を持ち出してきたのか気づいたらしい。
「お前、それは…」
「大丈夫。―――オモチャよ」
くすりと笑って、細く開いた窓の隙間からドローンを狙う。
パシュッという、金属の擦れる音。
一直線に飛び出したそれは、ドローンのプロペラに直撃して、甲高い音を響かせた。
機体がゆらゆらと蛇行し、そのまま地面に落下する。
「ん、終わり」
さっさと手を引っ込めると、隣で見ていた秀一が糸目の片方を開いた。
「ホォー、エアガンか」
「言ったでしょ、オモチャだって」
一見ハンドガンにも見えるこれは、正真正銘のエアガンだ。サイレンサーまでつけているから、パッと見ただけでは判別できないだろう。
「そうは言うが、今の威力はどう考えても改造だろう」
「あ、バレた?」
さすが秀一。一目で見抜かれたか。
「俺の記憶が確かなら、あれほどの威力を出す改造は、日本では違法だったはずだが?」
「そうね。だから零には内緒にしてるの」
しれっと肯定すると、秀一は開いた糸目で物言いたげに私を見た。口では何も言ってこないのをいいことに、その視線を黙殺してキャビネットにエアガンを仕舞う。
「さてと、じゃあ行ってくるわ」
「どこに?」
「例の博士のとこ」
くるりと踵を返し、挨拶がてらひらひらと後ろ手を振った。
「…彼女に迷惑をかけるなよ」
忠告に加えてため息まで聞こえてきて、私はくすくすと笑いながら肩をすくめる。
「心外ね。目つきの悪いどこかの誰かより、よっぽど気を許してくれてるわ」
その一言を言い残し、私は工藤邸を後にした。
571人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時