Case.187 ページ37
東京サミットの準備に追われ、やっとのことで帰宅したら午前2時を回っていた。
2時間は寝られるだろうか。
くしゃりと前髪を搔き上げて、思わずため息をこぼす。
「――ん?」
郵便受けを開くと、中に入っていた封筒がかさりと音を立てた。
「……」
スマホのライトを点けて、封筒を照らす。A4の定型サイズだが、真ん中が大きく盛り上がっているのを見るに、中身は紙ではなく物らしい。さらに観察すると、封筒の隅の方に何かが書きつけられていた。
それは、ギムレットのサイン。――Aだ。
「メールにあったのはこれか…」
今日の夕方に、Aからメールが入っていたのだ。曰く、借りていたものをポストに入れておいたとのこと。
封筒を小脇に抱え、階段を上がって自宅へ急ぐ。
リビングに荷物を下ろして封筒を開けると、中には予想通りの物が入っていた。
「やっぱり眼鏡か」
メガネケースに入ったそれは、以前毛利小五郎に近づく為に引き受けた、探偵業の依頼で使用したもの。つい先日Aがこれを見つけて、変装で使いたいと言うから貸したのだが、どうやら早々に役目を終えたようだ。
メガネケースを取り出し、封筒を処分しようとしたところで、ごわついた感覚に手を止める。まだ何かあるらしい。他に貸したものはあっただろうかと記憶を辿りながら、中に残っていたものを取り出す。
「…うん?」
出てきたものは2つ。
ひとつは四つ折りにされたメモ。
《気をつけないと、好奇心旺盛な眼鏡のボウヤに上手く使われるわよ》
書いてあるのはそれだけで、なんの話かさっぱり分からない。好奇心旺盛な眼鏡のボウヤといえば、どう考えてもコナン君だが。
上手く使われるって…、何をどうやって?
小学生ながらズバ抜けた知識力と推理力を持つあの少年のことは、既に恐ろしく感じている。なにせ、僕の言動からその正体が公安のゼロだと見破ったのだ。あれ以来、コナン君を相手取る時に警戒を怠ったことは一度も無い。
だが、Aが言うことだ。一応気に留めておこう。
そして、もうひとつ。
取り出したそれを広げ、じっくりと眺めてみる。
紺色の生地で、デザインはなし。シンプルすぎるそれは、どう見ても。
「…なんでメガネ拭き?」
僕がその理由を知るのは、もう少し後のこと。
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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時