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Case.185 ページ35

「きゃ…!」
「っ、すまな――」

短い悲鳴を上げてぐらりとよろめいた体を支えたその時、彼女の掛けていた眼鏡がするりと外れた。

「ま―――っ…!」

とっさに伸ばした手が、地面に落ちるよりも先に眼鏡を掴む。
ギリギリセーフ…。
ほっと息をついて、いや待てよと瞬く。掴んだは良いが、己の手はどこを握っている?

「……大変申し訳無い。レンズに指紋が…」
「…いえ、落ちて割れるより全然…」

レンズの両面にしっかりとついた指紋に、女性は若干顔を引きつらせる。
眼鏡を愛用している者にとって、レンズの指紋は大敵だ。罪悪感が半端ない。
せめてもの償いに、いつも持ち歩いているメガネ拭きを取り出そうと、スーツの内ポケットに手を入れた。

「あの、良ければこれを…」


《それではここで、NAZUから送られてきた“はくちょう”の映像を見てみましょう!》


ぎしりと、身体がこわばった。


半ば条件反射で視線を向けた先では、“はくちょう”が火星で採取する映像が流れていた。画面の端には、提供元であるNAZUのロゴマークが表示されている。



ざぁ、と血の気が引く音がした。



「―――ッ」

指先が急激に冷えていく。
周囲の音が瞬時に遠ざかり、心臓の鼓動が大きく響いた。


――彼は…


淡々と告げられたその言葉が、耳の奥で木霊する。
脳裏に蘇る記憶は不鮮明で、尊敬する上司がどのような顔をしていたのか、まるで靄がかかったように思い出せない。


ぐらり、と目眩のような感覚に襲われたが、気合いでその場に踏みとどまった。


「…最近は、どの番組も“はくちょう”で持ちきりですね」

「…え、あ…」

ハッと我に返る。まずい、反応が遅れた。

「…もしかして、そういう関係のお仕事だったり?」
「いえ、そういうわけではなく…個人的に興味がありまして」

妙に勘繰られてしまったので、とりあえず口先だけ濁しておく。女性は特に疑う様子もなく、納得したように頷いていた。うまく誤魔化せたらしい。

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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時

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