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Case.183 ページ33

「…それで」

ちらりと視線がこちらを向く。

「…いつ褒めてくれるのかしら、honey?」

不貞腐れていた所為か、頬が少しむくれている。そこに優しく手を滑らせて、セットが崩れないようこめかみに唇を落とす。

「髪も服も、君によく似合ってる。…誰にも見せたくないくらい綺麗だ」

もっと言えば、人通りの少ない時間帯で良かったとすら思う。

「…本心?」
「もちろん」

見上げてくる瞳をじっと見つめ返す。

「…いいわ、信じてあげる」

薄いグレーが満足そうに笑った。どうやら機嫌は直ったらしい。

「でも意外ね。バーボンは褒め上手な印象があったから、零もそうだと思ってたんだけど…」
「いや…まぁ、それについては否定しないが…」

情報収集において、相手に気をよくしてもらう為に褒めておだてるのは常套手段だ。目端は利く方だし、得意だとも思っている。

だが。

「…あれは余裕があるからできるんだ」

ぽつりと抗議すると、Aはきょとんと瞬いた。

「…余裕、ないの?」
「ないよ。デート前の用事が美容院だったってことすら察せなかったし。…正直、ここまで準備してきてくれるとも思ってなかったんだ」

僕としては、写真を撮らせてもらえるというだけでも十分すぎると思っていたから。

「…まったく、零は女心が分かってないわね」
「うっ…」

返す言葉もないと内心で反省していると、視界の端から伸びてきたAの両手に頬を挟まれた。

「……!」

見上げてくる薄いグレーと、目が合って。


「せっかくアンタの手元に残るんだもの。綺麗な姿を見てほしいじゃない?」


そう言って、Aは緩やかに笑う。


イルミネーションの光に照らされて、その瞳に映る―――僕が見えた。


「―――…」

何か言おうと開きかけた口が、空気だけを飲み込む。
Aはそれを反省ととったらしい。もっと勉強しなさいと言って、さっさと手を放してしまった。

「ほら、時間もあんまりないし、早く行きましょ」
「…ああ」

くるりと身を翻して先を行く背を見つめて、僕は手の中のスマホを握る。

そして。


「…シャッターチャンス、逃したな」


そう、小さく呟いた。

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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時

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