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Case.182 ページ32

「私…だけ?」
「ああ。スコッチには直接指摘されたし、…悔しいが赤井にも似たようなことを言われた」

駅のホームで言われた、からかい半分の皮肉を思い出す。途端に苛立ちが首をもたげたので、慌てて思考から存在を追い出した。貴重なデートを、あの男の所為で台無しにするわけにはいかない。
心を落ち着けてちらりとAを見やると、思わずふっと笑ってしまった。

「…なんで君が赤くなるんだ」
「う、うるさいわね…」

イルミネーションの光でも分かるくらいに色づいている。この場合、恥ずかしいのは僕の方だと思うんだが。
…いや、余計なことは言うまい。

それより赤くなっている様子が可愛くて、さり気なく手を腰に回して引き寄せる。
大人しくされるがままになってはくれるものの、顔だけはそっぽを向いて見せようとしない。

「A」
「…何よ」

呼びかけると、不貞腐れた声が返ってくる。僕はおもむろにスマホを持ち上げた。

「写真」
「引っ叩くわよ?」
「ごめん」

固く握りしめられた拳が掲げられた。叩くじゃなくて殴るの間違いだと思う。

「撮るならちゃんと撮って。1枚だけって約束、まさか忘れてないわよね?」
「悪かったよ。今のはちょっとした冗談だから…」

そこで、Aは盛大にため息をついて僕を睨んだ。

「冗談よりも前に、せっかく綺麗にしてきた私に何か言うことはないわけ?」
「…え?」

そう言われて、はたと固まる。

もちろん、今日のAが普段と雰囲気が違うことは気づいていた。いつもはもう少しラフなのに、今はデートを意識した装いと言うべきだろうか。
少なくとも、今着ているニットワンピースは初めて見たし、そのヘアセットはどう見ても美容院でやってもらったに違いない。

そこまで考えて、やっとひとつ思い至った。

まさか、デート前の用事って…。

「…気が利かなくてすまない」

額に手を当てて項垂れる傍ら、Aは別に…と一言こぼして目線をそらした。

「いつも言葉が欲しいわけじゃないけど、こういう時くらいは言ってもらいたいの」

分かるでしょと言われて、はいと返す。
その気持ちはよく分かる。だって、立場が逆なら僕も同じだ。

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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時

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