Case.181 ページ31
その光景を目にした瞬間、Aの顔がパッと輝いた。
「どうだ、凄いだろ?」
「…ええ」
短い返事と共に、Aはするりと僕の腕を離れていく。
そこは、光り輝く並木通り。
200メートルは続いているであろうその場所は、小さな光の粒に溢れていた。
だいぶ明るいんだな…。
こうして直接見に来るのは初めてだったが、昼間の様とはいかないまでも、周囲はかなり明るくなっている。
僕はそっとAに視線を向けた。
彼女は今、写真の為にカラコンを外している。虹彩の色が薄いと眩しさを感じやすくなるのだが、この明るさはどうなのだろう。
心配でしばらく様子を窺ったところ、少し眩しそうではあるが、辛くはないようだ。
楽しそうに並木道を眺めているのを見るに、気に入ってもらえたらしい。
「ここのイルミネーションは毎年人気なんだが、今年はかなり気合が入っていると評判なんだ」
「ふふ、確かに。噂には聞いてたけど、まさかこんなに幻想的だなんて思ってなかったわ。ティンカーベルが飛んできそうっていうのも、ちょっと納得ね」
「…ティンカーベル?」
何の話かと聞いてみると、あの大阪弁の彼の想い人が言っていたらしい。例えで妖精を出すあたり、どうやらロマンチストの気があるようだ。
「…だったら、どちらにしても“13日の金曜日”は御法度だったか」
「は?」
きょとんと瞬いたAに、ポアロでのことを教える。
「なるほどね。確かに和葉ちゃんは、そういうジンクスは気にするタイプかも。…まぁ個人的には、好きなら悩んでないでさっさと伝えればいいのにと思うけど」
呆れたように肩をすくめながら、Aは僕がポアロで言った通りのことを呟いている。
「やっぱり、君はそう言うと思ったよ」
「だって…ぐずぐずしてる間がもったいないじゃない」
「同感だ。それに…言わなければ伝わらないしな?」
にやりと笑ってAの顔を覗き込む。
告白するまで、僕が好意を寄せていることに一切気づいていなかったことは忘れない。
言外に指摘すると、彼女は拗ねるように唇をとがらせた。
「あれはアンタの演技力の問題でしょ…」
「君にそう言ってもらえるのは光栄だが、残念ながらあのセーフハウスで気づいてないのは君だけだったぞ」
「……へ?」
Aの口がぽかんと開いた。
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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時