Case.160 ページ4
「なかなかな捨て台詞ですよねぇ。そんなに嫌われてるのに、賄賂を使ってまでこのスタッフジャンパーを手に入れるなんて…執念ですね」
だぼついた袖で口元を隠し、女はくすくすと笑っている。波土のスタッフジャンパーを着ているあたり、ライブスタッフなのだろう。
「君、この写真が撮られた時、近くに居たのかね?」
「ええ、まぁ。怒鳴った波土さんの声が聞こえる程度には」
「なるほど…」
言われた刑事が顎に手を当てて考え込む。それを眺めていると、そのスタッフの女と視線が合った。
「…あれ?」
軽い足取りで近づいてきた彼女は、じっと私を凝視する。
なんなの、この女。
もしかして、変装している女の知り合いだろうか。だとすると、下手にあしらうのは得策じゃない。どう凌ごうかと思考を巡らせたところで、目の前の女がバーボンを見てパッと顔を輝かせた。
「もしかして、貴方達が喫茶ポアロの店員さん?」
何を言われるかと思えば、どうやら親しい間柄ではなかったらしい。
「ええ…」
「そうですが、僕達に何か?」
バーボンがさり気なく半歩前に進み出る。その後ろで、私はそっと身を潜めた。
「わぁ、やっぱり!実は、貴方達が来てたら渡してほしいって頼まれたものがあるんですよ」
そう言って、女は持っていたボディバッグをごそごそと探る。バーボンの纏う雰囲気が、わずかに鋭さを増した。
「頼まれたというのは…誰にです?」
声に混じる警戒の色に気づく様子もなく、女は記憶をたどるように小首を傾げる。
「誰というか…知らない女の人だったんですよねぇ。外で作業してたら、突然声かけられて…あ、あった」
女が取り出したのは、手紙だった。封筒は白無地で、差出人も何も書かれていない。
「これを、お姉さんにって」
『………え?』
思わず飛び出た声が、バーボンと重なった。
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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時