Case.171 ページ21
国際線の到着ロビーで待ち構えていると、目的の人物がゲートをくぐってきた。
スマホを取り出して、どこかに連絡しようとしているのが見て取れる。それを耳に当てるより先に、僕の手が彼女の腕を掴んだ。
「Aっ!」
「っ!?」
びくっと肩が飛び跳ねる。勢いよく振り向いたAは、僕の姿をとらえてきょとんと瞬いた。
「え―――、零?」
その瞳が薄いグレーのままになっているのは、入国審査の為だろう。そこに驚きしか含まれていないのを見て、ホッと肩の力を抜く。
「どうしてここに…」
「…なんだ、僕に出迎えられるのは嫌だったか?」
珍しく困惑をあらわにするAに、悪戯心が湧いた。わざとらしく拗ねて、不機嫌な彼女の声を待つ。
しかし。
「…やっぱり、怒ってるわよね…」
「え、」
予想外に落ち込んだ反応が返ってきてしまった。ハの字に眉尻を下げ、薄いグレーも伏し目がちになっている。その様子が、デートより仕事を優先させたあの時の自分の姿と重なった。
まったく、僕には気にするなと言ったくせに。
ふっと口元を緩めて、うつむく頭に手を乗せる。
「すまない、ちょっと意地悪を言ったな。仕事で帰国したことは聞いてる。怒ってないから、安心してくれ」
すると、え、と声がこぼれて、Aは僕を見上げた。
「聞いたって…誰に?」
「…コナン君から」
正確には、コナン君を通して、だ。
プライドは捨てたので、Aが帰国しているかどうか、直球でコナン君に聞いてみた。
結果的にコナン君も知らなかったらしく、わざわざ知り合いのFBI捜査官に聞いてきてくれたのだ。
――Aさん、仕事で急遽帰国したんだって
――でも、明日には帰ってくるみたいだよ
それを聞いて、心底ホッとした。
組織の任務から外れたわけでも、僕を避けて距離を置かれたわけでもない。もしかしたらあの朝のことについてはまだ怒っているかもしれないが、それくらい可愛いものだ。誠心誠意謝ろう。
ちなみに、コナン君にはお礼にポアロでしっかり奢ったのと、知り合いのFBI捜査官とやらは詮索しないことで手を打っている。
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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時