Case.170 ページ20
間違いない。記憶の中にあるものと同じ味だ。
でも、…やっぱり。
零が作ったケーキの方がおいしい。
思わずふっと笑ってしまって、同僚が怪訝そうな顔をする。
「…A？どうしたの？」
「ちょっと…彼が恋しくて？」
上手い表現が見つからないけど、言いたいことは間違ってはいない。
急ぎの帰国だったから、零には伝えずに来てしまった。何度か電話やメールをしているけど、連絡はついていない。
零、やっぱり怒ってるよね…。
来日したらすぐに謝るつもりではいるけど、無断で1週間音信不通はさすがに酷い。
どうやって機嫌を取ろうか…。
とりあえず、どこか行きたい場所があるなら付き合おう。望むなら、しばらく彼の家に泊まってあげたっていい。零のことだから、なんだかんだで許してくれそうだけど、それとこれとは話が別だ。
それに、私も零と一緒に居たいし。
たった1週間で随分と恋しくなってしまった。日本にいた時はなんともなかったのに、こんな状況は初めてだからだろうか。
「いいわねぇ…幸せそうで」
「え？」
脈絡のない言葉にきょとんと瞬いたのも束の間、口元が緩んでいることに気が付いてハッとする。
「…私…今どんな顔してた…？」
そろりと同僚を見やれば、彼女はにんまりと口の端を吊り上げた。
「それはもう、彼のことが好きで好きで仕方ないって顔よ」
「う…」
心底楽しそうにつんつんと頬をつつかれる。否定はしないけど、こうして正面からからかわれるのはさすがに恥ずかしい。じわりと顔に集まってきた熱を隠そうと、ラテに口をつけて誤魔化す。
「あのAに、ついに恋人ができたって聞いただけでも驚きだったのに…随分と惚れ込んでるみたいじゃない。彼、そんなにいい男？」
「…まぁ」
小さく頷くと、彼女の口角が再び持ち上がった。
「で、初めてこんなに離れたから、会えなくてちょっと寂しいのね？」
「………」
完全に面白がってる質問に答えるのも癪に障る。抵抗のつもりで無言を返したら、これ見よがしに吹き出された。
ああもう！
「寂しいわよ！当たり前でしょ！？せめて声くらい聴きたいわよ！」
開き直って声を荒げる。これで満足かと睨んだら、同僚にはハイハイと軽くあしらわれた。
解せない。
「もう、そんなに怒らないの。こういう時のオススメ教えてあげるから」
「…オススメ？」
なんの話かと眉を顰める私に、彼女は内緒話でもするかのように顔を近づけてくる。
そこで、私ははたと瞬いた。
「―――あ」
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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます！とても励みになります…！しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです！更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (
レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：胡蝶 | 作成日時：2022年10月1日 1時
