Case.169 ページ19
カタカタと鳴り響いていたキーボードの音が、ピタリと止んだ。
「あー……疲れた」
イスの上でぐったりと背もたれに寄りかかり、私は長いため息を吐き出した。
零に暴言を吐いたあの日、突然ジェイムズから電話が掛かってきた。
曰く。
――君の隠れ家経由で救援要請が入った
――すまないが、一時本国へ帰国してくれ
“隠れ家”というのは、私が前線復帰するまでにサポートに入っていた特殊科学班の事だ。私が手伝ってた部類はその中でもサイバー関係で、そこを経由しての応援ということは、ある程度想像はつく。
まさか、また仕掛けてくるとはね…。
少し前に、日本から遠隔操作でサイバー攻撃を防いだことがあった。あの時もそれなりにやり返してやったはずだけど、どうやら懲りてなかったらしい。
今回私が呼ばれたのは、前より大規模に仕掛けられた上に、初動が遅れてしまって手に負えないと泣きつかれたからだ。帰国依頼は拒否できないか確認したけど、残念ながら工藤邸においてあるものじゃスペックが足りない。
渋々帰国して完膚無きまでに叩き潰してやったあと、初動が遅れた分の後始末を細々とやっていたら、いつの間にか1週間が経っていた。
「あと少しなのに…終わらない…」
机に突っ伏して屍を体現していると、後ろから声がかかった。
「なんだ、残念。まだ終わってなかったのね」
ひょこりと横から顔をのぞかせてきたのは、仲の良い年上の同僚だった。
「終わってたらこんなことしてないで帰ってる…」
そのままの姿勢でぽつりと返すと、顔の隣にプラスチックのカップが置かれた。例のコーヒーチェーンのホットラテだ。
「はい、頼まれてたラテ。とりあえず休憩にしましょ」
「ありがと…」
のそりと起き上がって、机に置かれたカップに口をつける。甘い。
「はー…糖分が補給されてく…」
普段なら砂糖は抜いてるけど、今ばかりはこの甘さがありがたい。
「ついでにケーキも買ってきたわ。ここのガトーショコラ、Aも好きだったでしょう?」
ガサガサと袋から取り出された箱には、この近くのカフェの名前が書かれている。前線復帰するまでは、よく同僚と通った店だ。
「やった、久々!」
懐かしくてテンションが上がる。食べたらもうひと踏ん張りしてさっさと片を付けよう。
どうぞと渡されたガトーショコラを上機嫌で口に運ぶ。
「………?」
思わず、きょとんと瞬いた。
あれ…?
不思議に思って、もう一口食べてみる。
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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時