Case.168 ページ18
本庁での仕事を終え、僕と風見は2人でバーにやってきた。
風見が抱えていた案件が一段落したことへのねぎらいだったはずが、何故こんな話をしているんだ僕は。
もちろん、あの朝の出来事は“僕のデリカシーがなかった”としか言っていないが。
「この1週間、降谷さんがお忙しかったことは承知しています。ですが…少々時間を空けすぎかと」
口火を切って楽になったのか、はっきりと痛いことを言ってくる。
「…分かってはいるんだ」
「…といいますと?」
僕の微妙な反応に、風見は怪訝そうな顔で眉を顰める。
「……返事がない」
変態と叫んだAは、逃げるように風呂場へ直行した。寝ぼけていたとはいえ、あれは自分でもドン引き案件だ。彼女の後でシャワーを浴びながら、謝ってポアロのケーキで機嫌を取ろうと算段をつけていたのに、部屋に戻るとAの姿が消えていた。
鞄どころか靴もなくなっていて、慌てて電話をかけてもコールが鳴るばかり。思いの外怒っていたのかもしれないと思って、昼頃にもう一度電話をしてみたら電源が切れていた。
「…それで、メールを送ったり、何度も電話しているんだが…今のところ何も」
そして、謝る隙もないまま1週間が過ぎたというわけだ。
「降谷さん…」
憐れみを込めた風見の視線がつらい。
「しかし、このままというわけにもいかないでしょう。九条捜査官のお住まいは、またご存知ないのですか?」
言われて、僕はぐしゃりと前髪を掻き上げる。
「…いや。先週の事件の際に判明した」
「えっ、そうなんですか!?じゃあ…!」
思わず声を大きくした風見をじろりと睨んで黙らせると、手の中のロックグラスに口をつけた。
「…しかるべき時がきたら君にも教えるよ」
そう言うと、風見はなるほどと呟く。
なんとなく、乗り込めない事は察したらしい。
張り込みならばと思わないでもなかったが、余裕の無い姿をあの男に見られるのは癪に障る。
…いや、もう意地は捨てるべきなのかもしれない。
プライドとA、どちらを取るかなど決まっている。
時間的な余裕は出来たし、明日あたり一度張ってみるか…?
算段をつけ出した僕の隣で、グラスを傾けていた風見が唐突に声を零した。
「…あっ」
「なんだ」
間髪入れずに反応する。風見は一瞬迷うように視線をうろつかせてから、おもむろに口を開いた。
「あの、もしかしたら…ですが」
「九条捜査官、一時帰国されたのでは?」
「……あ」
その発想はなかった。
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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時