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「…そう…そういうこと」
ずっと気になっていた。
あの冷血漢と名高いジンが、手ずから檻を用意して囲うとは――どれほどの女なのか。
仮にも何度か身体を重ねたことのある身としては、ほんの少し、雀の涙ほどには面白くなかったから。
…でも、これ以上聞くまでもないわね。
ただただ純粋に、己にだけ向けられた殺意という名の激情と執着。
黒に染まったこの世界で、これ以上に信じられるものはないのだから。
…可哀想に。
そっと伸ばした手で、彼女の細い首を撫でる。ぐるりと囲むようにつけられた赤い手形は、ジンに絞められた痕だろう。シャツしか羽織っていないせいで晒された足にも、痛々しい打撲痕がいくつも見える。
そして、至るところに散らばる――情事の痕。
彼女にとって屈辱でしかないその行為は、いつしかこの心を折るのだろう。
「…ねぇ、子猫ちゃん」
「…それ、私のこと？」
呼びかけると、不快そうに顔を歪める。
「いつまでも“貴方”だと呼びづらいでしょう？それとも、名前を教えてくれるのかしら」
そう言うと、むすっと口を閉じて視線をそらした。
どうやら受け入れてはもらえるらしい。
「もし…もしも、だけれど」
「…何」
もったいつけた言い方が気に入らないのか、子猫はぶっきらぼうに先を促す。
「もしも、ジンを殺せなかったら…どうするの？」
「………」
沈黙が下りた。
怒るかと思ったのに、彼女は私を見つめて、ひとつ瞬いただけで。
「―――クリス・ヴィンヤード」
「！」
唐突に名前を呼ばれて、思わず目を瞠る。
知っていたのね…。
顔を合わせてから今まで、少しもそんなそぶりは見せなかったから、知らないのだと思っていたのに。
驚いている私をよそにベッドから降りると、子猫は私の隣をすり抜けて、サイドテーブルにある水差しを取った。
「貴方は、女優だから知っているよね」
グラスに水を注ぎ、一息にあおる。
――そして。
「―――“To be, or not to be, that is the question.”」
「そんなの、もうずっと考えてるよ」
苦しそうに呟いて、コトンと―――グラスの底を鳴らした。
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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます！とても励みになります…！しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです！更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (
レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：胡蝶 | 作成日時：2022年10月1日 1時
