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さて、いよいよね。
そのドアに取り付けられた電子錠に指紋を認証させ、ロックを解除する。ちなみに、出る際はこの時登録した指紋を認証させることで解錠し、登録した指紋は都度リセットされるという完全なワンタイム式だ。もしハッキングしたとしても、簡単に攻略できる代物じゃない。
防音加工の重いドアを押し開け、部屋の中へと踏み込む。
コツンと、私のヒールの音だけが響いた。
やけに静かね…。
室内も簡素なもので、ベッドの他にサイドテーブルと水差しがあるくらいだ。荒れているかと思ったが、荒れるほど物がない。
そんな室内を見渡して、ふと首を傾げる。
…どこにいるのかしら。
姿が見えない。
もしかしてレストルームだろうか。外に出なくても済むよう、部屋の端に設置してあったはず。
そう思って覗いてみたけど、やはり姿は見えなかった。
「一体どこに…」
その時、目の端で何かがもぞりと動いた気がした。
パッと周りを見渡すが、視界に映るものに変化はない。
…いいえ。
動いたはずだ。何か。
注意深く目を走らせて、はたと瞬く。
まさかとは思うけど。
足音を忍ばせ、ベッドに近づく。その足元の隅で小さな山になっている布団を、そっと捲った。
そこには、くるりと丸まった背中があった。
「…寝ていたのね」
壁側を向き、縮こまるような体勢で眠っている。セミダブル程度はあるベッドなのに、どうしてこんな隅の方で丸くなっているのか。
まぁいいわ。その方がゆっくり観察できるし。
くすりと笑って、規則正しい寝息をたてる彼女をじっと見つめる。
白人の系統を思わせる白い肌に、整っているがどこか幼さの残る顔立ちはアジア系。シーツに広がる珍しい栗色の髪は、緩くウェーブのかかったセミロングだ。
オーバーサイズの白シャツを着せられているから分かりにくいが、細身でも発育はいいらしい。一見ティーンにも見えるが、アジアの血が混ざっているのなら年齢は20代前半が妥当だろう。
ジンったら、女の趣味が変わったのかしら。
ついそんなことを考えてしまう程度には、彼女の容貌は想像と違っていた。
「…ん、」
不意に、ふるりと瞼が震えた。
ゆっくりと開かれたその双眸が、色素の薄いグレーだと認識した―――刹那。
「―――え、」
目にも留まらぬ速さで眼前に迫った何かが、肌に突き立つ直前にビタリと音を立てて静止した。
「…なんだ、違った」
ぽつりとこぼれた声は、落胆だった。
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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時