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そこでふと、つい最近聞いた噂を思い出す。
ウォッカが必死になるのは、大抵ジンに関連することばかりだ。首の傷がウォッカの女でないとしたら、思い当たるのは一つしかない。
…もしかして。
「…ねぇ、ウォッカ?」
「ひ、」
うっそりと笑って目の前の男を見下ろす。反射的に腰を引いたのか、ウォッカはソファの背もたれにぴたりと張り付いた。
「最近ジンが拾い物をしたそうだけど…何か知ってるわね?」
5秒ほど経ってから、へい、と蚊の鳴くような声が返ってきた。
◇◇◇
「ああ、ここね」
ウォッカの運転で案内された洋館は、知っている場所だった。ジンが所有しているセーフハウスで、何度か来たことがある。
確か内装はアンティーク調で、なかなかいい雰囲気だったはず。ジンの気に入ってる場所の1つよね。
「兄貴は中にいらっしゃいやす」
「分かったわ」
ウォッカが奥へ車を回すのを尻目に中へ入る。まっすぐリビングルームへ向かうと、ソファで煙草をふかすジンの姿が見えた。
「…チッ」
開口一番、聞こえてきたのは舌打ちだった。
「ちょっと、何よその態度」
多少の嫌味は流すつもりでいたけれど、舌打ちだけなんて随分なご挨拶じゃない。
「フン…野次馬感覚で来たヤツに、くれてやる言葉なんざねぇよ」
「だって気になるじゃない?ただの拾い物だと思ってたのに、まさか貴方が檻まで用意して囲ってるなんて」
くすりと笑えば、鋭い視線がじろりと私を睨みつける。薄く笑みを浮かべたままそれを受け止めると、暫くしてジンがため息をついた。
「…まあいい。見てぇんなら勝手にしろ」
「あら、いいの?私が連れ出すかもしれないわよ」
てっきりついてくると思っていたのに、勝手にしろだなんて。私にその気がなくても、隙を突いて逃げる可能性は十分にある。
すると、ジンはくつくつと喉を鳴らした。
「なぁに、アイツは逃げたりしねぇさ」
「随分な自信ね。それだけ貴方に懐いてるってことかしら」
「…見りゃ分かる」
吸い込んだ煙を吐き出しながら、灰皿に灰を落とす。
もったいぶるわね…。
「アイツは“奥”にいる。さっさと行け」
「はいはい」
ひらりと片手を振って、“奥”と言われた部屋へ向かう。
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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時