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「珍しいものを読んでるのね、ウォッカ」

声をかけると、サングラスをかけた顔がハッと動いた。

「ベ、ベルモット…」
「フフ…本を読む時くらい、そのサングラスを外したら?暗くて読みづらいんじゃないかと思うけれど。…それとも、うたた寝がバレないように敢えてかけているのかしら」
「い、いえ…そういうわけじゃ…」

サングラスで目は見えないけれど、しどろもどろになっていることは分かる。
相変わらず分かりやすい男だこと。

「それで、どういう心境の変化?貴方が本を読んでるだけでも意外なのに、それがまさか戯曲だなんて」

その手に持っているのは、ウィリアム・シェイクスピア作『ハムレット』――その戯曲本だ。
言わずもがなの名作ではあるけれど、この男は舞台芸術にはあまり明るくなかったはず。

「いつの間に演劇に興味を持ったの?」

からかい半分で畳み掛けると、ウォッカは口元を引きつらせて頬を掻いた。

「興味があるわけじゃねぇんですが、…その、こういう類の学も身につけておこうかと…」
「そう、いい心がけね。その割には、大してページも進まずに眠っていたようだけど」
「うっ…」

図星とばかりに顔を背ける。一体どうしてこの本を手に取るに至ったのかは謎だが、意欲だけは認めよう。

「…あら?ウォッカ、いつの間にそんな相手ができたの?」
「え?」

なんのことかと不思議そうにするウォッカに、私は自分の首筋を指先でトントンと叩く。

「見たところ、つい最近つけられたもののようだけど…。貴方に女の影を見る日が来るなんて驚きだわ。もしかして、その本も彼女の影響かしら?」
「い、いや、一体何の話で…?」
「とぼけるつもり?…その首の傷、女に付けられたものでしょう?」

気づいていないのも無理はない。自分では見えないであろうその場所に、引っ掻いたような赤い線が走っているのだ。

すると、一瞬ぽかんと固まったウォッカが、文字通りソファから飛び上がった。

「こ、これは違ぇんです!!その、ね、猫に!猫にやられちまいやして!」
「嘘はいらないわ。別にどうもしないし、大して興味もないもの」
「本当にそんなんじゃねぇんですよ!」

必死ね…。
あしらってやったのに食い下がってくるなんて。猫だなんて見え透いた嘘が私に通用するわけないのに、こんなに否定するなんて何かあるのかしら。

.→←Case.Gimlet



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胡蝶(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます!とても励みになります…!しかも一気読みいただいたとのこと、とても嬉しいです!更新遅いですが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年12月5日 1時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 初めまして。内容の丁寧さに惹き込まれ、昨夜から一気読みしてしまいました。とても好きです。 (2022年12月4日 20時) (レス) id: d1e259953e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年10月1日 1時

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