第6夜 ページ6
「ローブ、だと思うんだが」
「…自分もそう思います」
つまり、彼女は外国から来たということだろうか。
ならば、もしや。
「密入国、ですか？」
そう言うと、己の上司はなんとも複雑な顔をした。
…こんな顔ができる人だっただろうか。
すると、降谷は頭を抱えて窓にもたれかかった。
「ついさっき、僕が見てきたことを、包み隠さず話す。にわかには信じ難いことだが、全て真実だ」
「は……」
一体どんな方法で日本に入り込んできたのか、風見は背筋を伸ばし、一字一句聞き逃すまいと耳を傾ける。
しかし、告げられた内容は自分の理解を超えていた。
「―――は？」
なんとか絞り出した声は、間抜けな音として病室に消えていく。
「そうだろうな。僕も同じことを言われたらそう言うだろう」
ぐしゃりと髪をかき上げた上司は、しかし嘘を言っているようには思えない。
第一、こんな嘘を部下に話して何になるというのか。
風見はとりあえず言いたいことをなんとか飲み下し、敬愛する上司に向き直った。
「状況は、把握しました」
「…すごいなお前」
せっかく褒められたのに嬉しくないのは何故だろう。
そこで、かすかなうめき声が聞こえた。
「！！」
降谷と風見は、すぐさま彼女の枕元に駆け寄った。
「き…みは……ずるい、なぁ…」
鈴を転がすような声が、か細く呟く。すると、彼女はゆっくりと瞼を押し上げた。
蒼い瞳が、ぼんやりと虚空を彷徨って、ぱちりと瞬きをする。焦点が合った。
「だれ……？」
「僕は降谷零。彼は風見祐也だ。―――君は？」
「……A」
ぽそりと呟かれた名前は、やはり日本名からかけ離れている。
「A、どこか痛いところはないかい？」
優しい声で降谷が問うと、彼女はゆるゆると首を振る。
「痛くは、ないよ。たぶん、すべて治ってしまったから」
そう言って起き上がるのを風見が手伝おうと手を差し伸べるが、Aはまた首を振った。
「本当に、大丈夫だから。手助けはいらない」
体を起こして、胸に手を当てる。
その様子に、何をしているのかと降谷と風見が訝しむ。
不意に、Aの頬を涙が伝った。
「生きて、いるんだね」
ぽたぽたと、シーツに落ちては吸い込まれていく透明な雫。それは、生きているということへの歓喜の涙か。
そう思った降谷は、しかし次に彼女が呟いたそれに言葉を飲み込んだ。
「―――生かされて、しまったんだね」
降谷も、風見も、瞬時に言葉が出てこなかった。
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胡蝶(プロフ) - ゆめさん» コメントありがとうございます！お、恐れ多いです…！蔵出しなので更新遅いですが、どうぞお付き合い下さいませ！ (2022年7月5日 3時) (
レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆめ(プロフ) - 好きな作品と好きな作品が合さってる上に最推し落ちとか神ですか！？この小説を推させてもらいますね！！！ (2022年7月3日 22時) (レス) id: acb22861a5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：胡蝶 | 作成日時：2022年6月25日 12時
