第42夜 ページ42
白旗を上げる梓に代わり、降谷がカウンターに入る。
「あれ、透さん!」
「お疲れ様です、A」
猛アタックする男性陣そっちのけで、Aは降谷に駆け寄った。
ショックをあらわにする彼らを横目に、降谷は密かに優越感に浸る。
「どうしたんだい?今日はお迎え来れないって言っていたよね?」
「思いの外、仕事が早く終わりまして。君のバイトが終わる時間だから、こちらに寄ったんですよ」
それとなく手を伸ばして、Aの横髪を耳にかけ、そのまま頬に添える。
降谷の突然の行動にきょとんとしたAだが、すぐにその意図を理解したらしい。ちらりと注目してくる視線を窺うと、頬の手に自分の両手を重ねた。
「ふふ、嬉しいな。ありがとう透さん!」
そしてダメ押しの眩しい笑顔。
『!?』
途端に、男性陣は絶望に嘆き、女性陣は色めき立つ。
勘のいい者から見ればバレバレの作戦ではあるが、素人目には十分だろう。
「…では、仕事が終わるまでここで待っていますね」
「うん、わかった!」
こくんと頷いて、Aはそのまま閉店準備に入る。降谷はわざとカウンターの端席に座り、営業スマイルを貼り付けて男たちを見た。
「―――どうも」
誰かがひっと悲鳴を上げた。
彼らは真っ青になると、次々と会計を済まして逃げるように出て行く。それにつられてか、女性客も降谷の様子を窺いながら店を出て行った。
それをぽかんとしたままレジを打って見送った梓は、誰もいなくなった店内を見渡して一言。
「こわっ…」
容赦のない降谷の姿に、若干引いていた。
「すごいねぇ、透さん!みんなとっても熱烈だったのに!」
「感心している場合じゃありませんよ、まったく。ちゃんとあしらえるようにならないと、困るのは貴方ですからね?」
ナンパになびくことはないだろうが、追い払おうという素振りが全くない。過ぎ去るのを待っているのかもしれないが、それはむしろ逆効果だ。
“向こう”ではどうしていたんだ…。
もしかしたら、恋人が裏で頑張っていたのかもしれない。
苦労したんだな、“ジュダル”君…。
顔も知らない彼がかわいそうになって、降谷はどこか遠くを見はるかす。
しかし実際は、“ジュダルの恋人”に手を出そうという命知らずがいなかったというのが真実なのだが、降谷が知る由もない。
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胡蝶(プロフ) - ゆめさん» コメントありがとうございます!お、恐れ多いです…!蔵出しなので更新遅いですが、どうぞお付き合い下さいませ! (2022年7月5日 3時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆめ(プロフ) - 好きな作品と好きな作品が合さってる上に最推し落ちとか神ですか!?この小説を推させてもらいますね!!! (2022年7月3日 22時) (レス) id: acb22861a5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年6月25日 12時