第30夜 ページ30
「ねえ、零さん。この世界に200年くらい生きてる人っているのかな?」
「は?」
思わず間抜けな声を出した降谷の隣で、Aはぺらりと歴史書をめくった。
「魔法で老化を止めるという話か?」
「ううん、そうじゃなくて」
「僕の知る限りいないが…」
「ああ、やっぱりそうなんだ」
この世界の歴史は憶測や虚構が多い。実際に見て、“確実に”伝える者がいないからだ。
「“向こう”にはいたのか?」
「いたよ。…死んでしまったけどね」
静かにそうかと答える降谷に、Aはうんと返した。
200年生きたレームのマギ、シェヘラザード。その遺志を受け継いだ友人を思い出して、元気かなと思いを馳せた。
この世界に魔法はない。ルフこそ存在するものの、この世界に生きる生命は、すべからく時間に従って成長し、老いていく。
それならば。
…コナン君に、悪いことしちゃったな。
――どうして君は、小さな子供のふりをしているのかな?
――…そうだな、たぶん蘭ちゃんと同じくらい
おそらくあの姿は、この世界の“普通”ではない。だからあの時、彼は焦ったのだ。
次会ったら謝ろう。
そんなことを考えていると、ひょいと本が取り上げられた。
「読んでる途中だったのに」
「もう寝る時間だ」
「眠くないよ?」
「体は疲れてるはずだし、明日も朝からポアロだろう。疲れを溜めるな。…それと、これを渡しておく」
本の代わりにAの手に置かれたのは、この部屋の合鍵だった。
降谷は明日から数日ほどポアロの勤務がない。そろそろ公安にも顔を出さなければいけないし、組織の方でも動かなければならないからだ。
「朝は送ってやれるが、夜は自分で帰ってきてもらわないといけない。それに、休みの日は外にも出たいだろ」
「いいのかい?」
「それくらい構わないさ」
すると、Aは合鍵を握り、ふふっと笑った。
「ありがとう、零さん」
「なくすんじゃないぞ」
「大丈夫さ」
それからすくっと立ち上がって、降谷の手を引く。
「どうした?」
「あれ、寝るんだよね?早く行こうよ」
Aはきょとんと降谷を見つめる。
様々な言葉がぐるぐると彼の頭を回った。
「………ああ、そうだな。寝ようか…」
降谷はついに、考えることをやめた。
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胡蝶(プロフ) - ゆめさん» コメントありがとうございます!お、恐れ多いです…!蔵出しなので更新遅いですが、どうぞお付き合い下さいませ! (2022年7月5日 3時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ゆめ(プロフ) - 好きな作品と好きな作品が合さってる上に最推し落ちとか神ですか!?この小説を推させてもらいますね!!! (2022年7月3日 22時) (レス) id: acb22861a5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年6月25日 12時