Case.150 ページ37
手を引かれて家に上がると、私は零の腕の中にいた。
しっかりと両腕を回され、肩には額が乗っている。ほとんど身動きがとれない中、性急すぎて脱ぎ散らかしてしまった靴が気になり、ほんの少し身じろいだ。
「…っ、」
すると、それすらも許さないというように一層強く抱きこまれてしまう。
…あの時も、そうだったっけ。
こんなに強くはなかったし、なんなら少し震えていたけれど。
こうして腕を回されて、どこにも行くなと――まるで縋るような。
「…A」
ぼんやりと昔の記憶を辿っていると、不意に名前を呼ばれた。
「…う、――んっ」
返事をしようとして、項に走った痛みの所為で別の声に変えられる。それはリップ音と共に首筋を降りたかと思うと、フェイスラインをなぞり、耳を甘噛みされて小さく息を詰めた。
「っ、…れ、い」
「…ん、」
返ってきた声は返事のつもりなのか、はぐらかしているのか。
…考えるまでもないな。
額から瞼へとキスが降りてきたところで、やっと零の目が見えた。
「…A」
「―――、零…」
ああ、やっぱり同じだ。
いつも澄んだ蒼色をしているのに、今はどこか昏い光を宿していて。
この瞳を、私は一度見たことがある。
…あれは。
ついと手を伸ばして、その頬に指を滑らせる。
「…酷い顔」
「っ、」
すり、と目元を擦ると、瞳が揺れた。それ以上言うなとばかりに唇を塞がれて、いつの間にか背後に迫っていた壁に背中を押し付けられる。
「んんっ、ふ、ぁ…」
「…は、A…」
口内を翻弄されながらも、呼びかけに応えようと零の服を掴んだ。
「、」
一瞬、零の動きが鈍る。どうしたのかと瞬いた直後、――腰を強く引き寄せられた。
「え、まっ…ッ!!」
すでにキツい体勢をしていたのもあって、体を支えきれずにガクンとバランスを崩す。受け身も間に合わなくて、ぎゅっと目を瞑って身体を硬くした。
けれど。
「……?」
思っていた痛みはやってこなかった。代わりに、耳のすぐ近くでゴツンと音がして、小さくイテッと声がする。
そっと片目を開けると、零が額を押さえてうつむいていた。どうやら私の体を支えようとしてぶつけたらしい。
「…自業自得」
「…すまない…」
呻くような謝罪が返ってきた。ちょっとは冷静になっただろう。
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胡蝶(プロフ) - 藍色さん» コメントありがとうございます!もったいないお言葉です…が、とてもとても嬉しいです!語彙力捻り出しながら書いた甲斐がありました…。書くのが遅い上に煮詰まっていて遅筆に拍車がかかっておりますが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年8月17日 13時) (レス) @page14 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
藍色(プロフ) - 作者様のキャラの感情表現、文才能力が凄すぎます…!度々一人で悶えながら読んでます!面白い作品に出会えて私は幸せです(´;ω;`)更新楽しみに待ってます! (2022年8月16日 3時) (レス) id: 82bbddf0f3 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ねるさん» コメントありがとうございます!一気読み嬉しいです!書くのが遅くてお待たせしておりますが、頑張って更新いたします…! (2022年8月9日 15時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ねる - 一気読みしてしまいました!続き待ってます!更新頑張ってください(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) (2022年8月8日 9時) (レス) @page27 id: a5b6221b88 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます!楽しんで頂けて嬉しいです!特に二幕はデレ期のつもりなので…距離感を詰めていく様子にお付き合い下さいませ! (2022年7月14日 20時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年6月25日 12時