Case.145 ページ32
ピクリと、背中の手がこわばった。
ボウヤがほんの少し目を眇める。
「シェイクスピアっていうと、やっぱり『ロミオとジュリエット』ですか？」
蘭ちゃんが高校生らしいタイトルを持ち出してきた。
シェイクスピアと聞いて一番にそれを持ってくるあたり、やっぱり女の子ね。
「ええ、それも読んだわ。でも、その時の私は、あの胸を割くような悲恋が理解できなくてね。何度も読み返したのは…別の作品」
それは、ウィリアム・シェイクスピア四大悲劇のひとつ。
「――――『ハムレット』」
そこで、真純ちゃんは片眉を跳ね上げた。
「『ハムレット』って…有名な悲劇ですよね？」
「確か、ものすっごいドロドロの復讐劇じゃなかったっけ…？」
蘭ちゃんと園子ちゃんが揃って顔を青くする。
気持ちは分からないでもない。
「確かに苦悩にみちた復讐劇だから、高校生からすると敬遠したくなるかもしれないけど…色々と考えさせられる話よ。興味があるなら、一度観劇してみるといいわ。戯曲は慣れてないと読みづらいから」
「は、はい…」
「考えときます…」
あ、これは気がなさそう。
もちろん強制するものじゃないし、押しつけるつもりもないけれど。
まぁいいか。ここまで言えば十分だろうし。
真純ちゃんがじっと考え込んでる。これ以上のヒントは不要だろう。
「さて。私の話はこれくらいにして、そろそろバンドの事を考えないと。まだ何の曲を演奏するかも決まっていないんでしょ？」
3人の演奏の腕は素人並だし、本当にバンドを組むつもりなら早めに進めないとね。
「あ、そうだった！」
「1時間なんて、話し合ってたらすぐよ。スタジオに入る前にコードも教わるなら、少し急いだ方がいいかもね」
やんわりと急かすと、3人はあれやこれやと選曲を始めた。それを横目に、背中に回った手をそっと外す。
「…A、」
ぽつりと名前を呼ばれて、応えるように目を合わせる。すると、何か言いかけた口がぐっと引き結ばれた。
…優しい人。
きっと、訊きたくて仕方がないはずなのに、こうして言葉を飲み込んでくれる。
けど、例え訊かれても答えることはできない。
…だって、まだ見つからないから。
『ハムレット』を何度も読み返したのは、復讐に燃えるハムレットの気持ちが、あまりにも理解できてしまったからだ。
そして同時に、同じ苦悩にも直面した。
―――“To be, or not to be, that is the question.”
その答えを―――私は未だに、探している。
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胡蝶(プロフ) - 藍色さん» コメントありがとうございます！もったいないお言葉です…が、とてもとても嬉しいです！語彙力捻り出しながら書いた甲斐がありました…。書くのが遅い上に煮詰まっていて遅筆に拍車がかかっておりますが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年8月17日 13時) (
レス) @page14 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
藍色(プロフ) - 作者様のキャラの感情表現、文才能力が凄すぎます…！度々一人で悶えながら読んでます！面白い作品に出会えて私は幸せです(´；ω；｀)更新楽しみに待ってます！ (2022年8月16日 3時) (レス) id: 82bbddf0f3 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ねるさん» コメントありがとうございます！一気読み嬉しいです！書くのが遅くてお待たせしておりますが、頑張って更新いたします…！ (2022年8月9日 15時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ねる - 一気読みしてしまいました！続き待ってます！更新頑張ってください(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) (2022年8月8日 9時) (レス) @page27 id: a5b6221b88 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます！楽しんで頂けて嬉しいです！特に二幕はデレ期のつもりなので…距離感を詰めていく様子にお付き合い下さいませ！ (2022年7月14日 20時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：胡蝶 | 作成日時：2022年6月25日 12時
