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Case.144 ページ31

やって来た貸しスタジオは1時間待ちで、先にベースを借りて休憩室で待つことになった。

真純ちゃんがゆっくりとベースで単音を鳴らす。

「世良ちゃんすごい!」

拍手をする女子高生2人に、真純ちゃんはドレミを弾いただけだと謙遜した。

「まぁ、兄貴の友人に教わったのはこれくらいだけどね」

兄の友人?
真純ちゃんの兄2人の周りに、そんな人いなかった気がするけど。
疑問符を飛ばしていると、隣に座る零がおもむろに口を開いた。

「ベースを教えてくれたその男の顔…覚えてますか?」
「!」

その一言で繋がった。

ああ、なんだ。そういうこと。

「まぁ、なんとなく。…でも、どうして分かったんだ?その友人が男だって」

真純ちゃんが挑戦的に零を見据える。対して、零は全く表情を変えずに組んだ両手に顎を乗せた。

「まぁ…――なんとなく」
「………」

とりあえず、関わらないように静かに身を引いておく。
すると、2人を挟んだ向こう側から、探るような視線が突き刺さった。目を向ければ、ボウヤの訝しげな瞳と目が合う。
訊きたいことは、なんとなく分かるけど…。
口元に笑みを乗せ、人差し指を立てて唇をとんとんと叩く。
ボウヤの口が不機嫌そうに曲がるので、面白くてくすくすと笑ってしまった。

その時、勢いよくテーブルを叩く音が聞こえてきた。

「…何、ケンカ?」
「…みたいだな。どうやら、演奏がうまく噛み合っていないらしい」

広くもない休憩室で声を張れば、聞く気がなくても聞こえてくる。
ボーカルの声が出てないやら、音がズレているやら、キレがないやら。最後は、毛糸の帽子を被った女がスタジオに消えていって静かになった。

「人と合わせて演奏するのって、やっぱり大変なのね」
「そういえば、Aさんは何か楽器弾けるの?」

他人事のように呟いてたら、ボウヤが思い出したように聞いてきた。

「残念ながら何も。特に昔は、趣味といえば読書くらいのものだったから」

すかさず、真純ちゃんが興味ありげに乗り出してくる。

「どんなもの読んでたんだ?」
「ジャンルは問わなかったけど、比較的よく読んだのはミステリー小説かな。あとは…」

ふつりと、思いがけず声が途切れた。

「―――…」

はく、と吐息だけが漏れる。
零の瞳に心配の色が滲んだ。そっと背中に手が回る。

「…Aさん?」
「あ…」

真純ちゃんが小首を傾げる。背中の温もりに意識を向けながら、言葉を継いだ。


「…シェイクスピアの戯曲本も、…よく読んだわ」

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胡蝶(プロフ) - 藍色さん» コメントありがとうございます!もったいないお言葉です…が、とてもとても嬉しいです!語彙力捻り出しながら書いた甲斐がありました…。書くのが遅い上に煮詰まっていて遅筆に拍車がかかっておりますが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年8月17日 13時) (レス) @page14 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
藍色(プロフ) - 作者様のキャラの感情表現、文才能力が凄すぎます…!度々一人で悶えながら読んでます!面白い作品に出会えて私は幸せです(´;ω;`)更新楽しみに待ってます! (2022年8月16日 3時) (レス) id: 82bbddf0f3 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ねるさん» コメントありがとうございます!一気読み嬉しいです!書くのが遅くてお待たせしておりますが、頑張って更新いたします…! (2022年8月9日 15時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ねる - 一気読みしてしまいました!続き待ってます!更新頑張ってください(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) (2022年8月8日 9時) (レス) @page27 id: a5b6221b88 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます!楽しんで頂けて嬉しいです!特に二幕はデレ期のつもりなので…距離感を詰めていく様子にお付き合い下さいませ! (2022年7月14日 20時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年6月25日 12時

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