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楽しげな声と、ベースの音が聞こえてくる。
「―――スコッチ」
呼びかけると、中学生くらいの子供と共に、くるりと振り返ってきた。
「あれ、そろそろ移動?」
「ええ。これ以上遅らせると、ギムレットが機嫌を損ねそうです」
とんとんと耳につけたイヤホンを叩く。
さっき、眠そうな声で「いつまでそこに居るの」と言われた。ちなみに今日のGPSはイヤホンについている。
すると、子供がスコッチを見上げた。
「…もう行っちゃうのか?」
たったの10分程度でだいぶ懐かれたらしい。残念そうに肩を落としている。
「ごめんな。俺達、これから行くところがあって。…あ、ほら。お兄さん帰ってきたぞ」
スコッチが視線を向けた先から、大股で歩いてくるニット帽の男が見えた。
「…ホントだ」
さらに声が落ち込んだのは、先程ライが叱ったからだろう。無視するかぞんざいに扱うものだと思っていたのに、意外と人間味のあることをしたから驚いた。
戻って来たライが、子供に切符をつき出す。
「これで帰れ」
「…うん」
しぶしぶ切符を受け取ったのを確認すると、ライはもう用はないとばかりに身を翻した。
「いいんですか?」
「これ以上は知らん」
そう言うと、ライは関りを拒否するかのように大股で歩く。スコッチはベースをすでに片付けて、子供に別れを告げていた。すぐに来るだろうと判断し、ライの後を追う。
「貴方に妹がいたとは意外でしたよ」
「…まぁな」
「そもそも、家族との縁が続いていたことも驚きですけど」
からかうように肩をすくめると、じろりとこちらを睨みつけてきた。嫌味は成功したらしい。
不意にライが立ち止まり、小さく鼻を鳴らした。
「俺としては、お前がどこぞの“猫”の匂いを身にまとって、平気でいられる事の方が驚きだな」
その口元が嘲笑うように吊り上がる。
「猫…って―――ッ!!」
瞬間、一気に顔が紅潮した。
「き、さま…ッ!!」
震える拳を握りしめ、喉元までせり上がった声をなんとか押しこめる。
ライは憎らしい笑みを浮かべたまま、睨みつける僕を置いて歩き出した。
「…ん?どうした、バーボン?」
「…いや、」
追いかけてきたスコッチに声をかけられ、握りしめていた拳を無理やり解く。僕の様子を不思議そうに見ていたスコッチは、ふと視線をずらして、ああ…と納得したような声をもらした。
「ギムレットの匂い、しっかり移ってたからなぁ…」
「………」
なんで分かったんだ。
理由は意地でも聞きたくないが。
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胡蝶(プロフ) - 藍色さん» コメントありがとうございます!もったいないお言葉です…が、とてもとても嬉しいです!語彙力捻り出しながら書いた甲斐がありました…。書くのが遅い上に煮詰まっていて遅筆に拍車がかかっておりますが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年8月17日 13時) (レス) @page14 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
藍色(プロフ) - 作者様のキャラの感情表現、文才能力が凄すぎます…!度々一人で悶えながら読んでます!面白い作品に出会えて私は幸せです(´;ω;`)更新楽しみに待ってます! (2022年8月16日 3時) (レス) id: 82bbddf0f3 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ねるさん» コメントありがとうございます!一気読み嬉しいです!書くのが遅くてお待たせしておりますが、頑張って更新いたします…! (2022年8月9日 15時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ねる - 一気読みしてしまいました!続き待ってます!更新頑張ってください(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) (2022年8月8日 9時) (レス) @page27 id: a5b6221b88 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます!楽しんで頂けて嬉しいです!特に二幕はデレ期のつもりなので…距離感を詰めていく様子にお付き合い下さいませ! (2022年7月14日 20時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年6月25日 12時